The Accidental Prime Minister

現在、インドの連邦政府はインド人民党(BJP)とその連立グループである国民民主同盟(NDA)によって運営されており、カリスマ政治家ナレーンドラ・モーディーが首相を務めている。モーディー首相は就任以降、数々の大胆な政策を打ち出しており、彼の強力なリーダーシップと決断力は国民の圧倒的な支持を集めている。国民の熱狂的なモーディー熱の裏には、彼の前に首相を務めた国民会議派のマンモーハン・スィンの影響もあるかもしれない。スィン前政権が、国民会議派のソニア・ガーンディー党首の傀儡であったことは誰もが知るところであった。

 2019年1月11日に公開されたヒンディー語映画「The Accidental Prime Minister」は、マンモーハン・スィンが首相を務めた2004年から2014年までの10年間の中央政治とその間のスィン首相の動向を追った伝記映画である。スィン首相のメディア顧問を務めたサンジャヤ・バールー著の同名の伝記を元に映画化された。この映画は、2019年4月~5月に下院総選挙を控えている微妙な時期に公開されており、政治的な動機に基づいて作られたプロパガンダ映画との批判も強い。

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Suraj Pe Mangal Bhari

時代劇映画というと、中世や近世を時代背景とした映画を思い浮かべるが、とうとう1990年代も時代劇の対象となってしまった。新型コロナウイルス感染拡大に伴う映画館閉鎖明けの2020年11月15日に劇場一般公開(定員50%)されたヒンディー語映画「Suraj Pe Mangal Bhari」は、1995年、都市名がボンベイからムンバイーに変わる頃を舞台としたコメディー映画である。特筆すべきは、別に無理に1995年を時代背景としなくても成り立つような映画だったことだ。それでも敢えて25年前のボンベイを選んだのは、その時代が醸し出す雰囲気を大事にしたかったのであろう。

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Tribhanga

1990年代に活躍した女優の一人にカージョルがいる。「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年)や「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)など、時代を代表する映画に出演して来た。1999年にアジャイ・デーヴガンと結婚し、2003年に長女を出産してからは第一線から退き、時々銀幕で姿を見るぐらいになった。ただ、アジャイとのオシドリ夫婦ぶりは業界でも有名で、ブランドアンバサダーとして企業から好印象のため、CMなどへの露出は少なくなかった。2010年には長男も出産している。最近、徐々に映画出演が増えて来ており、2021年1月15日からNetflixで配信開始の「Tribhanga」でも主演を演じている。

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Hichki

学校は誰もが通る道であり、特に若者が主人公のインド映画では、学校が舞台となることは多い。主題が別にあって、学校は単なるロケーションということも少なくないのだが、ヒンディー語映画は教育をテーマにすることも増えて来て、「Taare Zameen Par」(2007年)、「3 Idiots」(2009年)、「Paathshaala」(2010年)、「Stanley Ka Dabba」(2011年)などの映画が作られて来た。2018年3月23日に公開された「Hichki(しゃっくり)」も、学校が舞台の映画であるが、少し変わっている。トゥレット症候群の新人女性教師が主人公なのである。米国の教育者ブラッド・コーヘンの自伝「Front of the Class」(2005年)の映画化権を取得して作られた映画とのことである。

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Paltan

インドの戦争映画はほぼ愛国主義映画であり、主人公が戦う相手は、イスラーム教徒、英国人、パーキスターンのどれかと相場が決まっている。だが、2018年9月7日公開の「Paltan(小隊)」は、1967年に中国とスィッキムの国境地帯で勃発した、ナトゥ・ラ&チョ・ラ紛争を題材にしており、戦う相手は中華人民共和国の人民解放軍、つまり中国人となっている。

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Shubh Mangal Zyada Saavdhan

インドでは英領時代から同性愛は刑法377条で禁止とされており、違反者に対する最高刑は無期懲役となっていた。実際に377条違反で刑罰を受けた者はいないとされているが、インドの同性愛者は潜在的な犯罪者として肩身の狭い思いをしていた。ところが2018年9月6日に最高裁判所が377条を違憲とし、以後、インドでは同性愛は合法化された。

 インドにおいて同性愛を扱った映画はいくつかある。ディーパー・メヘター監督の「Fire」(1996年)はもっとも早い例で、レズを主題にしたが、インドとカナダの合作であり、純粋なインド映画ではない。「Girlfriend」(2004年)もレズを主題にした映画であった。他に、「Mango Souffle」(2002年)、「My Brother Nikhil」(2005年)、「Dunno Y Na Jaane Kyon…」(2010年)、「I Am」(2010年)、「Aligarh」(2015年)など、意外に多くの同性愛映画が作られている。だが、その中でもっとも影響力の強かった映画が「Dostana」(2008年)である。ジョン・アブラハム、アビシェーク・バッチャン、プリヤンカー・チョープラーが主演のこのコメディー映画では、主人公の2人は実際にはゲイではないが、とある事情からゲイのふりをすることになり、同性愛者の哀楽を経験することになる。そして何より、同性愛者にとってもっとも重要な、家族へのカミングアウトと、それの受容のシーンが感動的に描写されており、同性愛者からも非常に評価の高い映画となっている。この映画をきっかけに、インドでは家族にカミングアウトする同性愛者が増えたと言われている。

 2020年2月21日公開のヒンディー語映画「Shubh Mangal Zyada Saavdhan」は、最新の同性愛映画である。勃起不全を主題にした「Shubh Mangal Saavdhan」(2017年)の続編扱いだが、ストーリー上のつながりは全くない。インド刑法377条の撤廃前夜の物語であり、ゲイのカップルが家族から認めてもらうまでの顛末を描いたコメディー映画である。

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Uri: The Surgical Strike

2016年は印パ関係にとって重要な年であった。1月に4名のテロリストがパンジャーブ州のパターンコート空軍基地に侵入し、7名の兵士が殺された。9月にはさらに4名のテロリストがジャンムー&カシュミール州(当時)のウリー陸軍駐屯地に侵入し、19名の兵士と4名の市民が殺された。どちらのテロリストもパーキスターン領から越境してきたことは明らかだった。これを受けてインドは9月29日にパーキスターン領に位置するテロリストの拠点を「サージカル・ストライク(ピンポイント攻撃)」したと発表した。この攻撃について、印パで主張が食い違っており、実際に何が起こったのかははっきりしない。だが、インドが何らかの軍事行動を起こし、パーキスターン側に何らかの被害があったことだけは確かである。2016年のウリー襲撃事件とサージカル・ストライクを題材にしたヒンディー語映画が「Uri: The Surgical Strke」である。インドでは2019年1月11日に公開された。

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Good Newwz

昨今のヒンディー語映画は生殖に関するテーマも果敢に題材とするようになっており、過去に精子ドナーを題材にした「Vicky Donor」(2012年)、勃起不全を題材にした「Shubh Mangal Saavdhan」(2017年)、生理用品を題材にした「Padman」(2018年)などがあった。2019年12月27日公開のヒンディー語映画「Good Newwz」は、不妊治療と体外受精を題材にしたコメディー映画である。

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Thugs of Hindostan

インド映画界は言語ごとに独立しているが、相互に影響も及ぼし合っている。ヒンディー語映画産業はインド最大規模であり、他の映画界に及ぼす影響も甚大であるが、他の映画界から人材やアイデアを吸収するのも早い。南インド映画(主にタミル語やテルグ語)からの影響は何波にも渡って受けて来ているが、ここ最近では「Baahubali」シリーズ(2015年/2017年)の影響が顕著で、叙事詩的な戦争映画が増えた。2018年11月8日公開のヒンディー語映画「Thugs of Hindostan」も、壮大な規模のエピック・ドラマである。インド映画では珍しく、海洋アドベンチャー的な要素も含んでいる。予算は22億ルピー以上と推定されており、「Baahubali」を越えている。プロデューサーのアーディティヤ・チョープラーが社運を賭けて制作した映画と言える。

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Why Cheat India

人口13億人、25歳以下が人口の半分を占めるインドにおいて、受験戦争は熾烈を極めている。どの大学のどの学部に入学するかがその後の人生を決定するため、受験生は死に物狂いで勉強をする。また、親たちの教育熱を受けて塾産業も大いに発達している。特にラージャスターン州のコーターは多数の進学塾が集まる街として知られ、多くの受験生が寄宿しながら勉強に励んでいる。このような状態であるため、受験における不正も横行している。2019年1月18日公開のヒンディー語映画「Why Cheat India」は、受験不正ビジネスを題材にしている。興行的には大失敗に終わったが、インドの教育をテーマにした映画としては外せない作品である。

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