デリーで女性の飲酒運転が0のカラクリ

3月13日付けのタイムズ・オブ・インディア紙に下のような記事が出ていた。

  • Drunk driving: No woman fined in city in 2017, one this year
  • Only 2% of drivers involved in crashes are women

 これは、3月12日未明に女性運転手による飲酒運転の死亡事故があり、その関連記事として取り沙汰されていた事実である。

 記事によると、2017年に警察が把握した女性運転手による飲酒運転は1件もなく、2018年ではこれが女性による最初の飲酒運転事故であった。果たしてインドの女性は飲酒運転をしないのか、それとも、別の原因があるのか。そもそも、インドにおいて女性が交通事故を起こす件数や割合はどうなのだろうか。

 3月16日付けのデリー・タイムス紙(タイムズ・オブ・インディア紙の折込紙)にも、その件に関して少しだけ詳しい記事が掲載されていた。これらを併せて考察してみたい。

 

 まず、日本の状況を見てみる。「女性は男性よりも自動車の運転が下手」というのは一種の世界的な常識となっているが、これに関して様々なデータが示されながら賛成・反対の両論が展開される。日本でも時々議論になる話題だ。これについてネット上で一番詳しいのはこの記事である。結論は以下のようにまとめられると思う。

  • 女性よりも男性の方が事故件数は多い。
  • 免許保有者における男女の事故率を比べてみても男性の方が多い。
  • 走行距離当たりの事故率では女性の方が多い。
  • 男性は高速での事故の割合が高く、女性は低速での事故の割合が高い。

 日本では、男性の方が女性よりも免許保有率が高く(4:3)、免許を持っているにしても、女性の方がペーパードライバー率が高いことが予想されるので、単純に男性の事故件数が多いからと言って、女性の方が優秀な運転手かというとそういう訳でもない。ただし、免許保有率の差やペーパードライバー率の高低を差し引いても、男性の方が事故が多くなる。むしろ男性の事故の多さに影響しているのは、男性の方が仕事や家庭において長距離を運転する確率が高く、走行距離が長くなることだ。走行距離当たりの事故率を算出してみると、女性の方が高くなる。おそらくこの傾向は他の国でもそう変わらないのではなかろうか。

 では、インドの状況はどうか。今回、記事に掲載されていたのはデリーのデータなので、デリーの状況をサンプルとして考えてみたい。

 まず、免許保有率には男女間で圧倒的な差がある。71:1とのことである。デリーのような都会であっても、まだまだ女性が自動車を運転することは一般的ではないようだ。それはもちろん、経済的な理由が一番であろうが、社会通念的なハードルもあると推測される。

 また、デリーで登録されている自動車の内、女性運転手所有のものは11%で、免許保有率とそう矛盾していない数字である。ただ、保有していることと運転することはまた別の話なので、これは参考程度に捉えておいた方がよいだろう。

 次に、デリーで2017年に切られた違反切符は合計約260万件あったようだが、その内、女性運転手によるものはたったの600件ほどだった。男女比にすると430:1になる。免許保有率と比べてみても非常に低い数字だ。デリーの女性はそれほど安全運転なのだろうか。

 交通違反の中でも速度超過は最も危険なものだが、全部で13万9471件あったスピード違反の内、女性運転手によるものは514件のみだった。同じく男女比にすると270:1だ。やはり低い数字である。

 信号無視のデータもある。全部で16万7867件あった信号無視の内、女性運転手によるものは実に44件のみだった。男女比では3814:1。

 単純にこれらのデータを受け止めれば、女性は概ねきちんと速度制限を守り、ほとんど信号無視をしないという結論が導き出される。

 ただし、女性が関わる事故は全体の2%とのデータもある。とても低く感じるが、女性の免許保有率を今一度思い出し、それ(1.4%)と比較してみると、多少高い印象を受ける。さらに、男性に比べて圧倒的に低かった違反件数と比べてみると、「安全運転」しているように見える割には女性の事故は多い気すらする。

 実際にデリーの道路で運転していた経験から言わせてもらえば、インドの女性の運転は日本に輪を掛けて危ないの一言に尽きる。絶対に違反は多いはずだし、事故も少ないはずがない。

 女性の違反件数が少ないのには、実はインド特有の事情がある。そのヒントが、デリー・タイムス紙にも書かれていた。

 実はインドでは、女性の犯罪者・容疑者・違反者等の対応は女性警官が行うことになっている。インド映画を観ていても、例えば裁判所に女性の容疑者が引き立てられて来るときは、必ず女性警官が両脇に付く。何らかの重大な犯罪が行われ、その容疑者が女性であることが分かったときには、女性警官が動員される。しかし、交通違反に関しては、女性の違反者を見つけた時点でわざわざ女性警官を呼んだりすることは難しい。ほとんどの交通警官は男性であるし、特に夜間の警戒を行うのは男性警官に限られる。

 では、男性の交通警官が女性運転手の違反者を見つけた場合はどうするのか。一応、ルールに則って違反切符を切ろうとするようなのだが、もし運転手が自動車を降りたり窓を開けたりすることを頑なに拒否した場合、警官は何もできず、警告だけで見逃してしまうことが多いようだ。

 記事には警官の声がいくつか載っていた。

 「夜に速度超過や逆走で女性を止めると、窓を開けるのを拒否することが何度もある。時には鍵を掛けて出て来ようとせず、我々と話そうともしない。だから我々は時々、警告だけで行かせてしまう。」

 「女性警官が来なければ何もできない。女性運転手に対しては慎重に対応している。もし夜に女性警官がおらず、女性運転手が我々と話そうとしなければ、時々警告のみで済ませてしまう。」

 「時々我々は、女性警官がいないために、女性にアルコール検査をできないことがある。彼女らにテストを受けさせるのは不可能に近い。」

 インドの警察署は女性が一人で行けないような恐ろしい場所なのだが、その裏返しで、男性警官が女性違反者の違反切符を毅然と切ることができないという、何とも無力感あふれる状態になっている。

 デリーに住んでいたときも、「女性は交通違反で警官に捕まらない」という噂は耳にしていた。この記事を読む限り、どうやらそれは本当のようだ。このような噂を外国人が耳にするくらいだから、インドで生まれ育った女性たちは生活の知恵レベルで上記のような籠城作戦で交通違反を切り抜ける方法を習得してしまっているだろう。デリーで自動車を所有し運転する女性というのは、下手すると非常に権力を持つ家族の一員である可能性が高いので、そういう点も警官の手を緩めてしまっていると予想できる。

 おそらく日本でもインドでも、男女の運転、違反、事故の実態はそう変わらないはずである。免許所有率や自動車保有率で大きな違いがあるかもしれないが、自動車を運転する人々に限って分析してみれば、同じような傾向になるのではなかろうか。しかし、データ上の交通違反件数については、上記のような、男性警官が女性違反者の切符を切りにくいというインド特有の事情があるため、全く参考にならない。もちろん、交通違反を賄賂で済ますことも多いので、真相はほとんど闇の中だ。

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