War

21世紀のヒンディー語映画のひとつの特徴は、ハリウッド映画を模した、ジャンル別映画作りへの挑戦であった。SF映画、スーパーヒーロー映画、ホラー映画など、従来ハリウッド映画が得意としてきたジャンルの映画をインド風にアレンジする試みが続けられ、あらゆるジャンルをひとつの映画に詰め込むマサーラー映画を脱却し、バラエティー豊かな作品が作られるようになった。

 スパイ映画も、21世紀のヒンディー語映画が新たに挑戦し、確立に成功したジャンルのひとつである。スパイ映画というと、英米の「007」シリーズや「ミッション・インポッシブル」シリーズが有名だが、インドにもRAWという対外諜報機関があり、十分にスパイ映画が作られる素地があった。2000年代には「The Hero: Love Story of a Spy」(2003年)くらいしかRAWの登場するスパイ映画は思い付かないが、2010年代になると急増し、「Ek Tha Tiger」(2012年)、「Bang Bang!」(2014年)、「Baby」(2015年)、「Tiger Zinda Hai」(2017年)、「Raazi」(2018年)など、ほぼ毎年のようにRAW映画が作られるようになった。

 2019年10月2日公開のヒンディー語映画「War」も、RAWのエージェントを主人公にしたスパイ映画である。題名の「War」はもちろん「戦争」という意味の英語であるが、これは「RAW」の逆さ読みでもある。日本では2020年7月17日より「WAR ウォー!」の邦題と共に劇場一般公開された。地元のユナイテッド・シネマ豊橋18で鑑賞した。



 監督は「Bang Bang!」のスィッダールト・アーナンド。主演はリティク・ローシャンとタイガー・シュロフ。2000年代デビューのトップスターと2010年代デビューの新世代スターの共演だ。ヒロインは「Shuddh Desi Romance」(2013年)のヴァーニー・カプール。音楽監督はヴィシャール・シェーカルである。

 ストーリーは、RAWを裏切った熟練の諜報部員カビール少佐(リティク・ローシャン)と、その部下で若手諜報部員カーリド(タイガー・シュロフ)の戦いを基軸としている。国際テロリストのイリヤースィーを追っていたはずのカビールは、ある日を境に突然、国家上層部の人間を次々に暗殺し始める。カーリドは、なぜカビールがRAWを裏切ったのか、そして彼の次のターゲットは誰なのかを突き止めるため、カビールを追う。

 イラク、モロッコ、イタリア、ポルトガル、そして北極などを転々とする壮大なスケールのスパイ劇で、アクションシーンも盛りだくさんである。特に、現在もっともアクションを得意とする男優であるタイガー・シュロフのしなやかな身のこなしが存分に前面に押し出されており、戦闘シーンは爽快だ。

 アクションといえば、バイクチェイスやカーチェイスもしっかり盛りこまれている。バイクチェイスではワインディングから市街地まで網羅しており、カーチェイスではなんと北極の氷の上を爆走する。

 また、ヒンディー語映画界でもっとも優れたダンサーであるリティクの本気の踊りを久しぶりに堪能できる他、タイガーもダンスシーンでリティクと遜色ないダンスを披露しており、世代交代の波すら感じさせる。

 ストーリーの中にも、観客の裏をかく仕掛けが仕込まれていて、最後まで退屈しなかった。

 「War」は純粋な娯楽大作と言っていい作品であり、その中に何らかの社会的なメッセージや芸術性を読み取ろうとするのは間違いである。単純に楽しむための映画だ。敢えて付け加えるならば、「リティクとタイガーを共演させてみると面白いのではないか」という実験である。インドではこのような娯楽オンリーの作品は年に何本も公開される。だが、このような映画が日本で普通に公開されるようになったのは、かなりの進歩ではないかと感じる。日本でインド映画のような、まだまだマイナーな映画を公開するためには、娯楽要素に加えて「何か」がなければ、なかなか選んでもらえないからだ。「War」には、その「何か」があるとは考えられないのだが、それだからこそ、特別に感じられる。

 コロナ禍の中、そして、映画館が集客に苦労する中での公開となり、観客の動員を期待することが難しいのだが、健闘して欲しいものである。

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