Secret Superstar

日本と同様にインドでもYouTubeは言わずもがな人気で、YouTubeでの動画投稿をきっかけに有名となる例も増えている。その元祖と言えば、2011年から映画音楽のカバー動画を投稿し始め、その歌唱力がセンセーションを巻き起こしたシュラッダー・シャルマーではなかろうか。このような新しい世の中の動きをヒンディー語映画界も敏感に感じ取っており、物語の中にYouTubeが組み込まれる例がチラホラ出て来た。2017年10月19日公開のヒンディー語映画「Secret Superstar」もその一例である。この映画は中国で大ヒットを記録し、日本でも「シークレット・スーパースター」の邦題と共に8月9日から一般公開された。ヒューマントラストシネマ渋谷で鑑賞した。

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Super 30

日本ではしばしばインド人は数学が得意だというイメージを持たれている。数字としての「0」を発見した国であること、二桁の九九を覚えているとされていること、一時期インド式数学が流行したことなどがその要因であろう。少し詳しい人になると、インドが生んだ天才数学者ラーマーヌジャンとの関連からそのようなイメージを持っていることもある。ラーマーヌジャンを題材とした映画「奇蹟がくれた数式」(2015年)が日本でも公開されたので、さらに知られるようになったことだろう。だが、これらの情報からインド人の数学の才能に直接結びつくような納得いく説明が得られるか、というとなかなか難しい。それに対して、アーナンド・クマールの半生を題材にしたヒンディー語映画「Super 30」からは、もしかしたら大きなヒントが得られるかもしれない。

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2.0

2010年9月10日、ヒンディー語映画界はサルマーン・カーン主演アクション映画「Dabangg」の公開に沸いていた。それまでヒンディー語映画界では長らくアクション映画不毛の時代が続いていたが、徐々にアクション映画の復権が進んで行き、この「Dabangg」によって完全に時代の潮目が変わったのだった。ところが翌月、南インドからとんでもない映画が登場した。「Enthiran」である。当時インド映画史上最大の予算となる13億ルピーをつぎ込み、常人離れした想像力をCGの嵐によって強引に映像化した巨大スケールのこのロボット映画は、「Robot」の題名でヒンディー語吹替版も公開され、北インドの観客を仰天させた。主演はタミル語映画界のスーパースター、ラジニカーント。「ムトゥ 踊るマハラジャ」(1995年)で日本でもお馴染みである。この作品は2012年に日本でも「ロボット」の邦題と共に一般公開され、大きな話題となった。

 その続編「2.0」がインド本国で2018年11月29日に公開された。今回つぎ込まれた予算は54億ルピー。再びインド映画史上最高額である。そして、稼ぎ出した興行収入は国内のみではトントンとなるが、国外を含めると65億ルピー以上とされている。インドでは10億ルピーの興行収入がヒットの基準である。これらの数字がいかにクレイジーなものか分かるだろう。もちろん、2018年のインド国内興行収入ナンバー1である。これらの成功を受け、日本でも「ロボット2.0」の邦題と共に10月25日から一般公開されることが決定し、今回、マスコミ向け試写会で一足先に鑑賞することができた。ちなみに、日本で公開されるのはタミル語版である。

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Gully Boy

ムンバイーにあるアジア最大のスラム街ダーラーヴィー。「スラムドッグ$ミリオネア」(2008年)で一躍有名になり、メディアに登場する機会も増えた。ただ、スラム街と言っても、日本人が一般に想像するような不衛生で危険な貧困街ではなく、意外にキチンとした住宅街で、意外に普通の人々が住んでいる。住居費の高い大都会ムンバイーにおいて、中下流層の住宅需要を満たす重要な役割を果たしている。「スラムドッグ$ミリオネア」以降、ダーラーヴィーを巡るツアーが外国人観光客に人気となっていると聞くが、逆に言えば、観光客が容易に入っていけるぐらいの治安と秩序があるということだ。本当のスラム街は別にある。

 ダーラーヴィー出身ではないが、ダーラーヴィーから遠くないクルラー出身のラッパー、Naezyの半生を描いたヒンディー語映画「Gully Boy」(2019年)が日本で10月18日から「ガリー・ボーイ」の邦題と共に一般公開される。監督は「Zindagi Na Milegi Dobara」(2011年)などのゾーヤー・アクタル。女性監督なのに男臭い映画を作る傾向にあるのはファラー・カーンなんかと似ている。主演は現在絶好調のランヴィール・スィン。ヒロインは、これまた飛ぶ鳥を落とす勢いのアーリヤー・バット。他に、ヴィジャイ・ラーズ、カルキ・ケクラン、ヴィジャイ・ヴァルマー、スィッダーント・チャトゥルヴェーディーなどが出演している。また、ラップをテーマにした映画なだけあって、多くのラッパーが楽曲を提供している他、米国人ラッパーのNasがエグゼクティブ・プロデューサーとして参加している。マスコミ向け試写で鑑賞した。

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Sir

2018年にカンヌ国際映画祭批評家週間に出品され、GAN基金賞を受賞したインド映画「Sir」が、2019年8月2日に日本で「あなたの名前を呼べたなら」という邦題と共に一般公開された。監督はローヘナー・ゲーラー。主演はティロータマー・ショーメー、ヴィヴェーク・ゴーンバルなど。ゲーラー監督にとって本作が長編デビュー作である。ティロータマーは、「モンスーン・ウェディング」(2001年)でメイド役を務めていた女優で、今回も同様にメイド役を演じる。ただ、彼女は決してメイド専門女優ではなく、例えば「Hindi Medium」(2017年)ではコンサルタント役を演じていた。言語は主にヒンディー語だが、英語とマラーティー語も台詞に混じる。

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Sanju

日本で劇場一般公開されたインド映画の中で、品質と興行成績の2点においてもっともバランスよく高評価を得たのは、「きっと、うまくいく」(2009年、原題:3 Idiots)であろう。この作品はインド映画の最高峰のひとつであり、これが日本で受けなかったら、日本においてインド映画の未来はないと考えていたが、そんな心配は杞憂であった。おかげで、この作品を撮ったラージクマール・ヒーラーニー監督の作品はその後も日本で公開されやすくなり、「PK」(2014年)に続いて最新作「Sanju」(2018年)までも一般公開となった。

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Padmaavat

ヒンディー語文学の学習者なら誰でも通る、マリク・ムハンマド・ジャーエスィー著、バクティ時代を代表する作品「パドマーワト」(16世紀)は、サンジャイ・リーラー・バンサーリー監督によって映画化され、「Padmaavat」の題名と共にインド本国で2018年1月25日に公開された。「パドマーワト」は歴史上の人物(ラタン・スィンやアラーウッディーン・キルジーなど)が複数登場する叙事詩だが、その内容のほとんどはフィクションだとされている。しかしながら、この作品の主人公である、チットール王国の勇猛果敢な王妃パドマーワティー(パドミニーとも呼ばれる)は、特にラージャスターン地方の人々やヒンドゥー教徒の間で語り継がれ、神格化されてきた。現在のチットールを訪れると分かるが、ガイドたちは「パドマーワト」での描写や物語があたかも真実であるかのように観光客に案内をしている。そんなこともあって、「パドマーワト」を映画化するにあたって各方面から横槍が入り、撮影や公開に大きな支障が出た。セットが燃やされる事件まで起こって多大な損害が出たし、元々は2017年12月に公開予定だったにもかかわらず、公開中止を求める訴訟が複数あり、題名を「Padmavati」から「Padmaavat」に変更するなど、いくつかの修正を経て、翌月にようやく公開にこぎ着けたこともあった。そのせいで制作費は21.5億ルピーに膨らみ、インド映画史上有数のコストがかかった映画となったが、いざ公開されてみると、58.5億ルピーの興行成績を記録し、大ヒット作品となった。

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Padman

仏教をはじめとする複数の宗教を生み出して外部に輸出すると同時に、イスラーム教やキリスト教といった外部の宗教を受容してきた多宗教国家インドにおいて、8割弱の人々によって信仰されているとされるのがヒンドゥー教である。ただ、一口にヒンドゥー教といっても、日本の神道と似て創始者や聖典を持たない自然宗教の一種であるために、その信仰形態は多種多様である。そんなヒンドゥー教にも一定の教典は存在する。その中で、ヒンドゥー教の教義を大まかに決定づける根幹のひとつとしての役割を果たしてきたのが、今からおよそ2千年前に成立したとされるマヌ法典である。

Padman
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Aiyaary

10月6日(土)からインディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン(IFFJ)2018が開幕した。この映画祭には発足時から主に字幕翻訳者として関わっており、今年は「Aiyaary」の字幕を担当した。字幕を翻訳する際には何度も見返すため、ストーリーの隅々まで分かるものだ。ここではネタバレを含む完全な解説をしたいと思う。

 まず、題名となっている「Aiyaary(アイヤーリー)」の語意は、大修館書店の「ヒンディー語=日本語辞典」によれば、

  1. 詐欺、ぺてん、いかさま
  2. 器用さ
  3. 忍術

となっている。劇中において、変装の名人である主人公のあだ名として使われており、「奇術」と解釈するのがもっとも妥当だろうと考え、邦題を「アイヤーリー ~戦場の奇術師~」とした。

Aiyaary

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Kho Ki Pa Lu (Chokri)

ンド映画というとどうしても歌って踊っての娯楽映画が有名だが、さすが世界一の映画大国なだけあり、多種多様な映画が作られる中で、ちゃんとドキュメンタリー映画も一定数作られている。中央映画検定局(CBFC)の年次報告書によると、2015-16年にインドで認証された国産ドキュメンタリー映画は、多く見積もって280本ほどだが、その内の大半は短編に分類されるものである。しかも、インドの多くのドキュメンタリー映画は、情報放送省(Ministry of Information and Broadcasting)の映画部(Film Division)によって制作されている(参照)。インドの映画館で映画を観ると、たまに本編上映前に、非常につまらない短編映画が上映されることがあるが、あれが官製ドキュメンタリー映画の典型例である。独立したドキュメンタリー映画作家もいるが、ドキュメンタリー映画が映画館で単体で上映されることは滅多になく、映画祭や上映会で鑑賞するか、あとはYouTubeで公開されているものを見つけて観るか、ぐらいしか接する手段はない。それでも話題になる作品は存在する。21世紀に入り、もっとも社会に影響を与えたドキュメンタリー映画といえば、ラーケーシュ・シャルマー監督の「Final Solution」(2003年)ではないかと思う。

 外国人によってインドで撮影されたドキュメンタリー映画、となるとまたひとつのジャンルだ。インドは被写体とストーリーに溢れた国。インドを舞台に、あるいは題材に、多くのドキュメンタリー映画が撮られている。もっとも有名なのは、英国人女性監督ザナ・ブリスキによる「Born into Brothels」(2004年)ではなかろうか。この作品はアカデミー賞ドキュメンタリー長編映画賞を受賞している。

 10月から日本で一般公開予定の「あまねき旋律」は、南インドのプドゥッチェリーに住むインド人カップル、アヌシュカー・ミーナークシーとイーシュワル・シュリークマールによるドキュメンタリー映画である。インド東北部ナガランド州の農村で6年の歳月を掛けて撮影された。同州ペク県のチャケサン・ナガ族が農作業をする様子などを映し出しているが、特に焦点を当てているのが、彼らの歌う「リ」と呼ばれる合唱である。音楽用語で言うと彼らの歌い方はポリフォニー(多声的合唱)と言うようで、南アジアでは稀とされている。「あまねき旋律」の原題は「Kho Ki Pa Lu(コ・キ・パ・ル)」。これは現地語で「上へ下へ横へ」という意味のようで、「リ」の特徴をよく表している。もちろん、彼らが稲作を行う棚田もその題名に重ね合わされているのだろう。ちなみに英語名は「Up Down and Sideways」である。

Kho Ki Pa Lu

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