Dolly Kitty Aur Woh Chamakte Sitare

21世紀のヒンディー語映画界は様々な面において劇的な変化を遂げたが、その内のひとつに女性像の変化がある。ヒンディー語映画においてかつてヒーローの単なる添え物に過ぎなかったヒロインは、徐々に個性を発揮し始め、遂には主役の座にまで躍り出るようになった。「Jab We Met」(2007年)のギートや、「Kahaani」(2012年)のヴィディヤー、「Queen」(2014年)のラーニーなど、いくつもの女性ヒロインたちを経て、その潮流は着実に進行して来た。

 そして2020年になった今、さらに大きな変化を感じさせる映画に出会うことができた。2020年9月18日からNetflixで配信されているヒンディー語映画「Dolly Kitty Aur Woh Chamakte Sitare」である。この映画は、現代インド人のセクシャリティー、特に女性のセクシャリティーを女性の視点から赤裸々に綴った作品で、初公開は2019年の釜山国際映画祭であるが、劇場公開はされていない。新型コロナウイルス感染拡大を原因とする映画館閉鎖により、映画館を飛ばしてのNetflix配信となった作品の一本だと思われる。

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Bulbbul

コルカタ(旧名カルカッタ)のあるベンガル地方は、ノーベル文学賞受賞者ラビーンドラナート・タゴールを生んだ地域である。この地で作られるベンガル語映画はそんな風土を反映してか、文学的な雰囲気のものが多い。もっとも有名なのは、アジアにおいて黒澤明監督と並び称されたサティヤジート・ラーイ(サタジット・レイ)監督の作品群であるが、現代でもそれは当てはまる。それだけでなく、ヒンディー語映画であっても、ベンガル地方を舞台にした映画は、どことなくベンガル語映画の風味を持つことが多いのは興味深い。

 2020年6月24日からNetflixで公開されている「Bulbbul」も、ヒンディー語映画でありながら、ベンガル地方が舞台であり、ベンガル語映画的雰囲気の映画である。

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Gunjan Saxena

インドとパーキスターンは、分離独立から今までに、公式に3回戦争をしているが、それ以外にも小規模な衝突は繰り返されて来た。その中でも、1999年に勃発したカールギル紛争は、ほぼ「戦争」と呼んでもいい出来事であった。そして、それが「戦争」であるならば、史上初の核保有国同士の衝突となる。カールギル紛争はインド側の勝利で終わったとされているため、愛国心を高揚するインド映画の題材にもなって来た。ヒンディー語映画では、「LOC: Kargil」(2003年)や「Lakshya」(2004年)が代表例だ。

 ところで、2020年、インドでも新型コロナウイルスの感染が拡大し、非常事態宣言発令や都市封鎖などの対策を余儀なくされている。映画業界も大いにCOVID-19の影響を受けており、現地からは、映画館の休業、新作映画の公開延期、人気俳優の感染などが報告されている。そんな中、映画館での公開をスキップして、ネット配信される映画も出て来た。カールギル紛争を題材にしたヒンディー語映画「Gunjan Saxena」もそんな一本である。2020年8月12日、インド独立記念日の週に、Netflixで世界同時配信された。

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War

21世紀のヒンディー語映画のひとつの特徴は、ハリウッド映画を模した、ジャンル別映画作りへの挑戦であった。SF映画、スーパーヒーロー映画、ホラー映画など、従来ハリウッド映画が得意としてきたジャンルの映画をインド風にアレンジする試みが続けられ、あらゆるジャンルをひとつの映画に詰め込むマサーラー映画を脱却し、バラエティー豊かな作品が作られるようになった。

 スパイ映画も、21世紀のヒンディー語映画が新たに挑戦し、確立に成功したジャンルのひとつである。スパイ映画というと、英米の「007」シリーズや「ミッション・インポッシブル」シリーズが有名だが、インドにもRAWという対外諜報機関があり、十分にスパイ映画が作られる素地があった。2000年代には「The Hero: Love Story of a Spy」(2003年)くらいしかRAWの登場するスパイ映画は思い付かないが、2010年代になると急増し、「Ek Tha Tiger」(2012年)、「Bang Bang!」(2014年)、「Baby」(2015年)、「Tiger Zinda Hai」(2017年)、「Raazi」(2018年)など、ほぼ毎年のようにRAW映画が作られるようになった。

 2019年10月2日公開のヒンディー語映画「War」も、RAWのエージェントを主人公にしたスパイ映画である。題名の「War」はもちろん「戦争」という意味の英語であるが、これは「RAW」の逆さ読みでもある。日本では2020年7月17日より「WAR ウォー!」の邦題と共に劇場一般公開された。地元のユナイテッド・シネマ豊橋18で鑑賞した。

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Tagore Songs

アジア人で初めてのノーベル賞となるノーベル文学賞を受賞したラビーンドラナート・タゴールは多才な人物で、文学以外にも多くの芸術分野や社会活動で業績を残した。その中でも、彼が作詞作曲をした2,000曲以上の歌の数々は、現在までベンガル地方を中心に歌い継がれており、一般に「ラビーンドラ・サンギート」と呼ばれている。ベンガル地方中心なのは、タゴールがベンガル人だからであり、彼の詩作の中心はベンガル語だったからだ。ベンガル地方は、インドの西ベンガル州とバングラデシュに分かれている。

 そんなラビーンドラ・サンギートに魅せられた日本人、東京外国語大学ヒンディー語専攻卒の佐々木美佳監督によるドキュメンタリー映画「タゴール・ソングス」が現在「仮設の映画館」で公開中である。本来ならば4月18日より劇場一般公開のはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が発令されたことにより中止となり、代わりに前述のオンライン映画館で公開されている。

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Malang

ヒンディー語映画界において、音楽重視の映画作りをしている映画人の筆頭と言えば、Tシリーズのブーシャン・クマールである。Tシリーズは元々、音楽レーベルであり、後に映画制作にも乗り出した。ただ、彼自身はプロデューサー業に専念しており、音楽以外は映画監督に一任しているようである。今や、TシリーズのYouTubeチャンネルは世界一の登録者数を誇っている。

 Tシリーズはヒンディー語映画界で一大勢力を築き上げているバット一家と相性が良く、共に多くの名作を生みだした。最近では、「Aashiqui 2」(2013年)の大成功が記憶に新しい。この映画の監督はモーヒト・スーリーであるが、彼もバット一家の一員である。

 モーヒト・スーリー監督の最新作が2020年2月7日公開の「Malang」である。主演は「Aashiqui 2」と同じアーディティヤ・ロイ・カプールと、「Baaghi 2」(2018年)などのディシャー・パータニー。他にアニル・カプール、クナール・ケームー、ヴァトサル・シェート、シャード・ランダーワーなどが出演している。音楽はミトゥンやアンキト・ティワーリーなど、複数の音楽監督による。やはり音楽が非常に良い映画だった。Netflixで鑑賞した。

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Dear Zindagi

2010年代のヒンディー語映画の大きな特徴のひとつは、女性の躍進である。女性の活躍が、スクリーンの表と裏の両面で目立つようになり、しかもそれらが正当な評価を得るようになった。女性のプロデューサー、映画監督、音楽監督などが台頭する一方で、女性が中心のストーリーが盛んに作られ、そして興行的にも遜色ない成績を残すようになった。言い替えれば、「女性の女性による女性のための映画作り」が進んだのが2010年代のヒンディー語映画だったと言えよう。

 主婦の尊厳をテーマにしたヒンディー語映画「English Vinglish」(2012年)は、「マダム・イン・ニューヨーク」という邦題と共に日本でも公開され、好評を博した。やはりこの映画の監督も女性のガウリー・シンデーであった。彼女にとって「English Vinglish」がデビュー作だったのだが、第2作が2016年11月25日公開の「Dear Zindagi」である。やはり、女性主人公の映画であり、主に女性の視点から女性の人生を語った作品となっている。

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Pink

2012年12月にデリーで発生した集団強姦事件は世界中に報道され、インドは女性にとって危険だという認識が広まってしまった。だが、この事件をきっかけにインドでは女性に対する性暴力への対策が推進されたことも確かである。それまでは強姦の被害者は泣き寝入りをすることが多く、もし被害届を出したとしても、女性側に非が求められることがあり、不利になることが多かった。だが、ニルバヤー事件以降、性暴力の「被害者」は「生存者」とよりポジティブに言い替えられ、積極的に被害届が出されるようになり、法律的にも女性の権限が強化された。具体的には、最高刑を死刑とし、未成年による性犯罪も厳罰化し、裁判も迅速に行われるようになった。だが、その一方で、今度は女性が強化された法律を逆手に取って、男性に対する復讐に利用するようになり、こちらも社会問題化するようになった。

 2016年9月16日に公開されたヒンディー語映画「Pink」は、強姦を扱った、と言うよりは、より根本的な問題を扱った作品である。すなわち、まだインドの社会に根強く残っている、独立した女性に対する偏見である。もっと詳しく言えば、仕事をし、親元を離れて住み、西洋的な格好をし、ロックショーに参加し、飲酒をするような女性は、売春婦として扱われる、インドの封建主義的な価値観を突いている。

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The Sky Is Pink

感動的映画を作るための手軽な黄金の公式として、余命幾ばくない人物、もしくは難病を患った人物を主人公にする手法がある。ヒンディー語映画界でも昔から散々使い古されてきたフォーミラであり、21世紀に入ってからも、「Kal Ho Naa Ho」(2003年)、「Black」(2005年)、「Tare Zameen Par」(2007年)、「Ghajini」(2008年)、「My Name Is Khan」(2010年)、「Margarita with a Straw」(2014年)など、多くの映画が作られてきた。その多くは名作として記憶されている。

 インドで2019年10月11日に公開されたヒンディー語映画「The Sky Is Pink」は、重症複合免疫不全症 (SCID)という難病を患った少女を主人公にした、実話に基づいた映画である。監督はショーナーリー・ボース。前作「Margarita with a Straw」では、脳性麻痺(CP)を題材とし、各国の映画賞を受賞した経歴を持っている。主演はプリヤンカー・チョープラー、ファルハーン・アクタル、そして「Dangal」(2017年)や「Secret Superstar」(2018年)のザーイラー・ワースィム。Netflixで鑑賞した。

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Rangoon

21世紀に入り、ヒンディー語映画は劇的な変化を遂げてきたが、特に2010年代に入って顕著に観られるようになった変化のひとつが、女性を主人公とした映画の増加である。女性を主人公とした映画が増えただけならそこまで注目に値しないが、そのような映画がコンスタントに興行的成功を収めるようになったことがより重要だ。「Kahaani」(2012年)、「Queen」(2014年)、「Neerja」(2016年)など、様々な名作を例として挙げることができる。

 インド映画界において、最初期の女性スターの一人として知られているのがフィアレス・ナディアと呼ばれる英国人スタント女優である。スコットランド人軍人の父とギリシア人ベリーダンサーの母の間にオーストラリアで生まれ、幼少時に渡印し、ボンベイからペシャーワル、ペシャーワルからボンベイへと移住して、サーカス団を経て女優となった。英領インド時代には、インド人女性が映画で演技をすることがまだ一般的ではなく、外国人女性が起用されることが少なくなかった。ナディアはスタント映画で一躍有名となり、1930年代から40年代にかけて多くのヒット作を飛ばした。代表作は「Hunterwali」(1935年)である。そのフィアレス・ナディアを緩やかにモデルにしたヒンディー語映画「Rangoon」が2017年2月24日に公開された。Netflixで鑑賞した。

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