ABCD 2

2013年、11年7ヶ月に及ぶインド留学生活を終える前、最後に観たインド映画が「ABCD」であった。「Any Body Can Dance」。インド初の3Dダンス映画を銘打ったヒンディー語映画で、ダンスの挿入が減った昨今のヒンディー語映画界において、ダンスとダンサーとコレオグラファーの復権を懸けて世に出された作品だと感じた。ストーリーはシンプルであったが、ダンスの質はとても高く、ダンスで魅せる映画の姿もあることを改めて納得させられた。

 2015年6月19日公開の「ABCD 2」は、題名から明らかなように、「ABCD」の続編である。3Dダンス映画という形式を踏襲しており、前作で主演を務めたプラブデーヴァが再び出演している。ただ、ストーリー上のつながりは希薄である。今回は実話に基づいたストーリーとなっているのが特筆すべきだ。

ABCD 2

 

 「ABCD 2」は、ムンバイーの下町で結成されたダンスグループが、一度はムンバイーのダンス競技会で審査員から「パクリ」と酷評されて挫折するも、再び奮起して、ラスベガスで開催される国際的なダンス大会に出場するという物語である。この物語の元となったのが、スレーシュ・ムクンドとヴェルノン・モンテリオ率いるダンスグループ、フィクシシャス・ダンス・グループ(Fictitious Dance Group)だ。彼らは、フィリピンのダンスグループ、フィリピン・オール・スターズ(Philippine All Stars)を理想としてあがめていたが、あまりに彼らから強く影響を受けすぎており、リアリティー・ショーに出演したときに、「パクリ」だとして批判された。しかし彼らは諦めず、目標をラスベガスで開催されるワールド・ヒップホップ・ダンス・チャンピオンシップに定めた。2012年、フィクシシャス・ダンス・グループはインドのグループとして初めて出場を果たし、決勝戦まで残った。そのときの映像はYouTubeで鑑賞することができる。組体操的な踊りを特徴としたグループであることが分かる。

 「ABCD 2」は、フィクシシャス・ダンス・グループのサクセスストーリーを元にしているだけでなく、彼らの全面協力を得て作られている。そのメンバーたちが映画に出演している他、振り付けをスレーシュとヴェルノンが担当している。また、プロデュースの一翼を米ディズニーが担っているだけあり、実際にラスベガスで撮影され、ワールド・ヒップホップ・ダンス・チャンピオンシップの名前や枠組みもそのまま使われている。

 監督は前作と同じくレモ・デスーザ、作曲も変わらずサチン・ジガル。作詞はマユール・プーリー、バードシャー、リーミー・ニクー、Dソルジャーズ、プリヤー・サラーイヤー。主演は、プラブデーヴァを除けば、ヴァルン・ダワンとシュラッダー・カプールになる。プラブデーヴァ以外に、ガネーシュ・アーチャーリヤ、ダルメーシュ・イェーランデー、プニート・パータク、それに米国人ダンサー、ローレン・ゴットリーブも前作に引き続き出演しているが、役は変わっている。ダンサー以外では、ムルリー・シャルマーとティスカ・チョープラーがそこそこ名のある俳優である。

 前述の通り、振り付けはスレーシュとヴェルノンだが、他に、当然のことながらレモ・デスーザも振り付けをしているし、フランス人ダンサー・コンビ、レ・トゥインズ(Le Twins)も振り付けをしていて、ダンスに関してはかなり豪華である。

あらすじ

 ムンバイー・スタナーズは、ムンバイーの下町、ナーラーソーパーラー(Nalasopara)で結成されたダンスグループであった。そのリーダーはスレーシュ・ムクンド、通称スルー(ヴァルン・ダワン)で、メンバーにはヴィニー(シュラッダー・カプール)やヴェルノン・モンテリオ(スシャーント・プジャーリー)などがいた。

 ムンバイー・スタナーズは、ダンス・リアリティー・ショー「Hum Kisi Se Kum Nahin」に出演するが、審査員から、フィリピンのダンスグループ、フィリピン・オール・スターズのパクリと酷評される。特にスルーは、母親がパドマシュリー受勲者のダンサーということもあり、審査員から叱責を受ける。それ以降、彼らは人々から「チーター(卑怯者)」と呼ばれるようになる。ムンバイー・スタナーズの大半はスルーの元を去ってしまった。

 それでもスルーは諦めなかった。彼は、ラスベガスで開催されるワールド・ヒップホップ・ダンス・チャンピオンシップに出場して汚名を返上することを決意する。しかし、そのためには、国際レベルの振り付けをする振り付け師と250万ルピーの資金が必要だった。スルーは、シェッティー・アンナー(ムルリー・シャルマー)の経営するバーでウェイターをしていたが、ある日そこで超絶ダンスを踊る飲んだくれ、ヴィシュヌ(プラブデーヴァ)と出会う。彼こそが求めていた人物だと、メンバー全員で何度も何度も通って振り付けをするように頼み込む。断り続けたヴィシュヌであったが、最後には承諾する。また、資金はシェッティー・アンナーが工面してくれるとのことで、こちらも解決した。さらに、新たにダルメーシュ、通称D(ダルメーシュ・イェーランデー)とヴィノード(プニート・パータク)という優れたダンサーもメンバーに加わった。あとは、国内予選で勝ち抜いて、ラスベガスへの切符を手にするのみだった。

 国内予選はバンガロールで行われた。スルーたちはインディア・スタナーズを名乗り、エントリーする。当初、主催者からは「チーター」と呼ばれて出場を拒否されるが、ヴィシュヌが頼み込んだことで出場権を獲得し、見事優勝する。シェッティー・アンナーが資金提供を渋ったことで、ラスベガス行きに暗雲が立ちこめるが、こちらもヴィシュヌの根回しにより、解決する。

 インディア・スタナーズはラスベガスへ渡り、ワールド・ヒップホップ・ダンス・チャンピオンシップに出場する。そこでは彼らが崇めるフィリピン・オール・スターズにも出会うことができた。彼らは順調に勝ち進むが、練習中にヴィニーが足を捻挫してしまい、しばらく踊れなくなる。そこで彼らはインド人と米国人のハーフ、オリーブ(ローレン・ゴットリーブ)にピンチヒッターを頼む。

 一方、ヴィシュヌは突如姿をくらましていた。実は彼は隠れた目的を持ってラスベガスに来ていた。スルーたちに踊りを教えたのも、ラスベガスに来るためだった。その目的とは、別れた妻スワティー(ティスカ・チョープラー)と息子に会うことだった。スワティーは再婚しており、息子はヴィシュヌを自分の父親だとは認識していなかった。しかし、彼はワールド・ヒップホップ・ダンス・チャンピオンシップを観ており、ヴィシュヌのことを知っていた。新たな目標を持ったヴィシュヌは、再びワールド・ヒップホップ・ダンス・チャンピオンシップの会場に戻り、メンバーと合流する。

 インディア・スタナーズは決勝戦まで残った。ヴィニーも回復し、ダンスに参加する。しかし、彼らは最後の大技で失敗してしまった。一度は諦めかけたが、もう一度大技に取り組み、成功させる。優勝することはできなかったが、彼らは、努力は決して無駄にはならないという、大切なことを学んだのだった。

解説

 前作「ABCD」に引き続き、ストーリーは非常に単純で、現代のヒンディー語映画の水準から見ると、駄作と評せざるを得ないだろう。監督のレモ・デスーザは優れた振り付け師であるが、監督の力量はない。「ABCD」は「Any Body Can Dance」、つまり「誰でも踊れる」だが、もしこれでレモにも監督が務まると評価されるならば、「Any Body Can Direct」、つまり「誰でも監督できる」となってしまうだろう。

 しかしながら、ダンスのレベルはやはり非常に高い。本業のダンサーたちを多数起用し、ストーリーの元になったフィクシシャス・ダンス・グループに振り付けをさせているのだから、当然と言えば当然であろう。また、世界各国のダンスグループも出演している。エンドクレジットによると、ドイツのTeam Recycled、フィリピンのPhilippine All Stars、オーストラリアのSuperhoodz、英国のUnity UK、イタリアのBlindin Side、ノルウェーのIntros Allstarsなどが登場している。特にフィリピン・オール・スターズはストーリー進行上、重要な役割を果たしている。さらに、「インドのマイケル・ジャクソン」の異名を持つプラブデーヴァが前作に引き続き出演し、踊りも披露しているので、ダンスにおいて失敗することはまずあり得ない。言うまでもなく、ダンスが見所の映画だ。

 3Dダンス映画ということなので、本当は映画館において3Dで楽しむべき映画である。僕はDVDで鑑賞したため、「ABCD 2」の本領を見たことにはならない。それでもダンスは独創性に満ちていて素晴らしかった。

 惜しむらくはストーリーの部分だ。ヴィシュヌがラスベガスへ行く目的が前半から謎として提示されていたが、種が明かされてみたら大したことはなかったし、スルーとヴィニーの恋愛も申し訳程度で何の緊張もない。聾唖者のダンサー、ヴィノードの存在は唯一、人物設定上で工夫した部分だが、彼が聾唖者であることがストーリー上で重要な役割を果たすことは遂になかった。むしろ、彼が結核か何かを煩っていて、それが決勝戦での失敗の伏線になっていたことの方が重要だった。ストーリーをもう少し煮詰めることができれば、ダンスの豪華さがさらに生きた作品になったことだろう。

 また、「ABCD」には、コレオグラファーの復権という大きな大義があったと感じるが、この「ABCD 2」に関しては、何かのメッセージを発信するというよりも、実話に基づいた物語であることもあって、インドのダンス文化の浸透という時代の流れが分かる作品という意義ぐらいしか感じられなかった。元々インド映画は踊りが入るので、その影響でインド人たちは踊りが大好きだが、近年では、TVのリアリティー・ショーがインド人の踊り好きを牽引しているように感じる。その中で、ヒップホップというジャンルの踊りも人気を博して来ているのだろう。インド人がヒップホップを踊るというのは、一昔前まではなかなか想像できなかったことだ。

 一応、「ABCD 2」のコレクション(国内興行収入)は100カロール(10億)ルピーを越えており、いわゆる100カロール・クラブの一作だが、既に昨今のインフレによって、10億ルピーはヒットの基準とするには少ない数字となっており、それでもってこの作品をヒット作と呼ぶのははばかられる。

 映画の中で、コメディー番組「Comedy Nights with Kapil」のシーンがあった。これは当時大人気だった番組だが、今年1月に放送終了している。実際に番組に出演していたカピル・シャルマーとナヴジョート・スィン・スィッドゥーが劇中でもカメオ出演している。

 「ABCD 2」は、前作に引き続き、3Dダンス映画を銘打った、ダンスだけに力を注いだ娯楽作だ。ストーリーは無いに等しいので、期待しない方がいい。ヴァルン・ダワンとシュラッダー・カプールの共演も、ほとんど隅に追いやられている。とにかくダンス、ダンス、ダンス。ダンスを楽しむだけの2時間半だ。

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