Angrezi Medium

インドの熾烈なお受験戦争を題材にしたブラック・コメディー映画「Hindi Medium」(2017年)は、日本でも劇場一般公開されるほど高い評価を受けた。プロデューサーのディネーシュ・ヴィジャンはその続編の製作に着手し、2020年3月13日に「Angrezi Medium」が公開された。「Medium(ミディアム)」とは教授言語のことで、ヒンディー・ミディアムというのはヒンディー語で授業を行う学校のことである。対する「Angrezi Medium」とは英語ミディアムのことで、英語で授業を行う学校のことだ。「Hindi Medium」は、ヒンディー語メディアム校出身の父親が娘を英語ミディアム校に入れようと奔走する映画だったが、「Angrezi Medium」は、娘をロンドンの大学に入れようとする父親の物語となっている。インド映画のシリーズ物にはよくあることなのだが、前作と今作にストーリー上のつながりはない。




 「Hindi Medium」の監督はサーケート・チャウダリーだったが、「Angrezi Medium」の監督は「Finding Fanny」(2014年)などのホーミー・アダジャーニヤーにバトンタッチしている。ただ、キャストの何人かは前作から引き継がれている。主演のイルファーン・カーン、助演のディーパク・ドーブリヤール、チョイ役のティロータマー・ショーメーである。他に、カリーナー・カプール、ディンプル・カパーリヤー、ラーディカー・マダン、ランヴィール・シャウリー、パンカジ・トリパーティー、キクー・シャールダー、ザーキル・フサインが主演している。

 ウダイプルで代々続く菓子屋ガスィーテーラームを経営するチャンパク(イルファーン・カーン)の娘ターリカー(ラーディカー・マダン)は、ロンドンの大学に留学することが夢だった。高校で上位3位以内に入るとトゥルフォード大学に留学するチャンスがあり、ターリカーは頑張って勉強してその権利を得るが、チャンパクが学長の夫の不正を暴いてしまったことで留学はキャンセルとなる。

 そこでチャンパクはあの手この手でターリカーをロンドンに送ろうとする。幼馴染みのバブルー(ランヴィール・シャウリー)がロンドンに住んでいるのを知り、彼に連絡して、ターリカーをトゥルフォード大学に入学する手伝いをしてもらうことにした。チャンパク、弟のゴーピー(ディーパク・ドーブリヤール)、そしてターリカーはロンドンへ飛ぶが、英語ができないために空港でチャンパクとゴーピーはトラブルを起こし、インドに送り返されてしまう。ターリカーはロンドンでアルバイトを始め、1人で暮らし始める。

 チャンパクとゴーピーは再びロンドンへ渡ろうとするが、ブラックリストに載ってしまったため、普通の手段では入国できそうになかった。そこでまずはドバイへ飛び、そこでパーキスターンのパスポートを手に入れ、ロンドンに入国する。ターリカーと再会するが、地元警官ナイナー(カリーナー・カプール)には目を付けられていた。また、ロンドンで羽振りが良さそうに見えたバブルーは実は経済的に困窮しており、警察に逮捕されていた。釈放されたバブルーは、ターリカーをトゥルフォード大学に入学させるため、裏の手口を使う。このような物語である。

 「Hindi Medium」は、インドの親が抱える教育問題をコメディータッチながら真っ向から取り上げた作品だった。その続編「Angrezi Medium」にも同様の味付けを期待したのだが、その期待通りではなかった。親が子供をいい学校に入れようとするという大きな流れは踏襲されているものの、話が留学とかなり大きくなってしまった。そのため、荒唐無稽な物語になってしまい、しかも前作で見られた優れたブラック・コメディー性も失われていた。続編モノの宿命ではあるが、前作を越える作品にはなっていなかった。

 「Angrezi Medium」という題名からは、英語に何らかの関係があるプロットを想像する。確かに主人公チャンパクや弟のゴーピーは英語がまともにできず、そのためにロンドンで様々なトラブルに巻き込まれるのだが、英語はあくまでコミカルなシーンを演出する道具に過ぎず、英語を主題とした映画ではなかった。前作「Hindi Medium」の方がよっぽどかその要素が強かったし、ましてや「English Vinglish」(2012年/マダム・イン・ニューヨーク)には到底及ばない。

 むしろ「Angrezi Medium」が強調していたのは、親子の絆である。チャンパクは、妻の死後、娘のターリカーを男手一つで育て上げた。この2人の間には強い絆があった。しかも、チャンパクは昔ながらのインド人の価値観を保持しており、良く言えば非常に面倒見が良く、悪く言えば非常にお節介だった。一方で、ロンドンに行ったターリカーは、親から自立して働きながら大学に通うインド人と出会う。それに感銘を受けたターリカーは、自分も親から自立して、アルバイトをして学費を稼ぎながら勉強をすることを決める。それを知ったチャンパクは、娘の考えを尊重しつつも、それが家族の正しい在り方なのかと疑問を抱く。インドの伝統的な家族観と、西洋的な個人主義の考えのぶつかり合いは、「Angrezi Medium」でもっとも鋭くえぐられていた部分であった。

 映画の序盤では、「ガスィーテーラーム」という屋号を巡って血縁者がお互いを訴え合っている裁判の様子が描写される。日本でも「元祖」「本家」の争いや商標の取り合いなどがあるが、インドでも多くの人々に認知された有名な店名などがあると、それを巡って複数の人々が所有権を主張し合って泥沼の裁判闘争となっていることが少なくない。この問題がどのように展開して行くかも、「Angrezi Medium」の見所だ。

 2020年に急逝したイルファーン・カーンにとって、「Angrezi Medium」は遺作となった。神経内分泌腫瘍を患い、2018年から2019年に掛けて英国で治療を受けていた彼は、復帰後にこの映画を完成させたが、この映画の公開後、すぐに帰らぬ人となった。だが、この作品によって彼はフィルムフェア賞男優賞を受賞した。

 劇中では使われていないのだが、「Angrezi Medium」には「Kudi Nu Nachne De」というダンスシーンがある。アヌシュカー・シャルマー、カトリーナ・カイフ、アーリヤー・バット、ジャーンヴィー・カプール、アナンニャー・パーンデーイ、クリティ・サノン、キヤーラー・アードヴァーニーと言ったヒンディー語映画界を代表する女優たちがこの曲に合わせて踊りを自撮りしたものをつなぎ合わせたものだ。

 「Angrezi Medium」は、日本でも劇場一般公開された傑作「Hindi Medium」の続編扱いとなる作品である。主演のイルファーン・カーンや助演のディーパク・ドーブリヤールなど、前作と共通する俳優もいるが、基本的には全く別のストーリーである。前作ではインドのお受験が取り上げられたが、今作では留学を巡るドタバタ劇となっており、スケールが大きくなった分、ストーリーから現実性が薄くなった。優れたブラック・コメディーだった前作に比べて、どちらかというとファミリードラマの要素が強くなり、その点でも全く異なった雰囲気の映画となっている。監督もバトンタッチしている。前作のような作品を期待して観ると肩透かしとなるが、イルファーン・カーンの遺作ということもあって、観る価値のある作品である。

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