Blackmail

ヒンディー語映画には意外に良質のサスペンス映画群があり、日本でも「Kahaani」(2012年/女神は二度微笑む)や「Andhadhun」(2018年/盲目のメロディ〜インド式殺人狂騒曲〜)などが公開され、一定の評価を受けて来た。ただ、サスペンス映画は万国共通なところがあり、あまりインド色が出せないので、わざわざインド映画でサスペンス映画を観る必要はない、と考える一般人が多いであろうことが弱みと言えば弱みである。2018年4月6日公開の「Blackmail」も、ヒンディー語映画界が誇る良質のサスペンス映画の一本だ。興行的にも成功を収めた。




 監督は「Delhi Belly」(2011年)などのアビナイ・デーオ。主演はイルファーン・カーン。他に、キールティ・クルハリ、アルノーダイ・スィン、ディヴィヤー・ダッター、プラドゥマン・スィン・モール、オーミー・ヴァイディヤー、アヌジャー・サーテー、ガジラージ・ラーオなどが出演している。また、最近スクリーンから遠ざかっていたウルミラー・マートーンドカルがアイテムガール出演している。

 舞台はムンバイー。トイレットペーパー製造会社で働くデーヴ(イルファーン・カーン)は、ある日、早めに仕事から帰宅したときに、妻のリーナー(キールティ・クルハリ)が見知らぬ男ランジート(アルノーダイ・スィン)と浮気しているのを発見してしまう。デーヴはランジートの携帯電話番号を調べ上げ、プリペイドSIMを使って彼に恐喝を始める。ランジートは大富豪の娘でかなり年上の女性ドリー(ディヴィヤー・ダッター)と結婚していた。ランジートはドリーから無心して恐喝相手に金を渡すが、その金をドリーに返さなくてはならなくなったとき、今度は彼がリーナーにメールを送って恐喝を始める。リーナーは、実の父の診療代や手術代だと言ってデーヴからその金を捻出する。

 また、デーヴの同僚アーナンド(プラドゥマン・スィン・モール)は、デーヴが妻の浮気相手を恐喝していることを、新入社員プラバー(アヌジャー・サーテー)にばらしてしまう。プラバーはデーヴを恐喝する。さらに、ランジートは私立探偵チャーウラー(ガジラージ・ラーオ)を雇って恐喝相手を突き止めようとする。チャーウラーはすぐに恐喝相手がデーヴであることを突き止めるが、すぐにはランジートに教えず、逆にデーヴを恐喝し始める。このような物語である。

 妻の浮気が発覚した憐れな夫の物語と思いきや、ローンに悩まされていたデーヴは復讐のために浮気相手から金をゆすり取ろうとする。しかし、複数の登場人物の中で恐喝の連鎖が起こり、結局デーヴの元にその恐喝が戻って来るなど、複雑に絡み合う。そして、序盤でアーナンドの口から予告されていた通り、連続殺人事件へとつながって行く。複雑な筋ではあるが、分かりやすいストーリーテーリングのおかげで混乱することなく、しかも終始ブラックコメディー・タッチで描写されるので、軽やかな気分でストーリーを追うことができる。アビナイ・デーオ監督の巧さが光る作品であった。

 登場人物に根っからの善人はおらず、皆、何らかの形で誰かを裏切ったり一獲千金を画策したりする。それ故に誰にも感情移入をする必要はないのだが、やはり主人公のデーヴには同情してしまう。終わり方は多少後味の悪いものであった。

 サスペンス映画では、俳優たちがここぞとばかりに名演を繰り広げるのも楽しみだ。主演のイルファーン・カーンはもちろんのこと、「3 Idiots」(2009年)のオーミー・ヴァイディヤー、「Tere Bin Laden」(2010年)のプラドゥマン・スィン・モールなども良かったし、何より普段は使いどころが難しそうなアルノーダイ・スィンが気弱で姑息な男を好演しており、映画を盛り上げていた。

 デーヴが務めるのがトイレットペーパー製造会社というのもウィットが効いていた。と言うのも、インドではトイレの後処理は水と手で行うのが一般的で、紙で後処理をするという西洋的な習慣は毛嫌いされている。そのインドにおいてトイレットペーパーで大儲けをしようと言うのだから、インド人観客は思わず苦笑することだろう。しかも、仮想敵はウォッシュレットと宣言されていた。水道局に賄賂を渡して水道を止め、トイレットペーパーを爆売する予定だったが、売れたのはボトルウォーターだった、というオチもニヤッとさせられた。

 「Blackmail」は、アビナイ・デーオ監督のブラックコメディー・サスペンスである。先の読めない展開にハラハラされられる脚本主体の映画であり、しかも主演のイルファーン・カーン以下、俳優陣の演技も素晴らしい。またひとつ、ヒンディー語映画において傑作サスペンス映画に数えられる作品が生まれたことを祝いたい。

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