Bobby Jasoos

2014年のヒンディー語映画は前年に引き続き女性中心の映画が多かった。伝統的に映画の成功は主演男優の肩に掛かっており、女優は添え物に過ぎず、映画のヒットはそのまま男優の功績となっていた。だが、最近になって主演女優が映画を牽引するタイプの作品が増えている。逆に言えば、女優も一人で映画を背負って立てなければトップの仲間入りができなくなりつつあると言っても過言ではない。

 2014年7月4日公開の「Bobby Jasoos」は、ヴィディヤー・バーラン主演の探偵コメディー映画である。ヴィディヤーはヒンディー語映画界でトップの「一人で稼げる女優」であり、これまで「The Ditry Picture」(2011年)や「Kahaani」(2012年)など、女優中心の映画を見事にヒットに導いて来た。ところがその神通力にも陰りが見えたようで、この「Bobby Jasoos」はフロップに終わってしまったようだ。

Bobby Jasoos

 

 それでも、演技に定評のある彼女が変幻自在の女探偵を演じるということで話題性は十分あり、僕もずっと見てみたいと思っていた。最近ようやくDVDが手に入ったので鑑賞することができた。

 また、「Bobby Jasoos」は女優のディーヤー・ミルザーが夫のサーヒル・サーンガーと共にプロデューサーを務めていることでも注目される。彼女にとって初のプロデュース作品である。既に30歳を越えており、女優を越えた活躍の場を求めていると思われる。ただ、まだまだ現役のヒロイン女優ができる年齢ではあり、今後彼女がどちらの道を重視するのか、注目だ。

 監督は新人のサマル・シェーク。過去にいくつかの作品で助監督などの下積みをしており、晴れて監督デビューとなった。監督とプロデューサーが新人ということで多少不安だが、音楽方面はベテラン揃いで、作曲はシャーンタヌ・モーイトラ、作詞はスワーナンド・キルキレーが担当している。キャストは、ヴィディヤー・バーランの他、「3 Idiots」(2009年)で自殺した男子学生を演じたアリー・ファザル、「Son of Sardaar」(2012年)でドジな悪役ボビーを演じたアルジャン・バージワー、ラージェーンドラ・グプター、スプリヤー・パータク、キラン・クマール、アーカーシュ・ダーヒヤーなどが出演している。

 ちなみに、「Bobby Jasoos」とは「探偵ボビー」という意味である。

あらすじ

 ハイダラーバードの下町ムガルプラー在住の30歳独身女性ビルキース・アハマド、通称ボビー(ヴィディヤー・バーラン)は探偵になるのが子供の頃からの夢で、実際に近所の人々のために探偵の真似事をしていた。だが、父親のアハマド(ラージェーンドラ・グプター)は結婚もせずにおかしなことばかりしている長女を家族の恥と見なしていた。

 ある日、ボビーの元にアニース・カーン(キラン・クマール)を名乗る英国在住の初老の男から、ニローファルという名前の女性を探して欲しいとの依頼が舞い込む。多額の報酬が用意されたためボビーは張り切り、ムガルプラーから目的の女性を探し出す。次にアニースはアミーナーという女性の捜索依頼を出す。さらに多額の報酬が提示されたが、今度は期限が短かった。今回もボビーは奇策を使ってアミーナーを見つけ出し、見事報酬金を手にする。

 これらの臨時収入のおかげでボビーはライバル探偵事務所の目の前にオフィスを構えることができた。また、ボビーはひょんなことから近所に住む若手俳優タサッウル(アリー・ファザル)と結婚することになってしまった。まだ結婚したくなかったタサッウルはボビーに何とかこの縁談を破談にするようにけしかける。

 次にアニースから捜索依頼を出されたのはアリー・カーンという男だった。ところがボビーはアニースの素性や人捜しの意図を疑い始める。ニローファルとアミーナーが行方不明になっていることを知り、ボビーは彼女たちが自分のせいで犯罪に巻き込まれたと考える。ボビーはタサッウルの助けを借りてアニースの宿泊先に潜入し、留守中の彼の部屋を調べるが、そのときアニースが帰って来てしまう。ボビーはアニースとタサッウルはホテルからつまみ出される。

 その後、アニースがホテルの部屋を引き払ってしまい、ボビーはアニースに辿り着くための手掛かりを失う。また、タサッウルとの結婚の準備が着々と進んでいた。

 しかしボビーは諦めなかった。アリー・カーンを見つけるまでアニースはどこにも行かないと考えたボビーは罠を張り巡らす。助手のムンナー(アーカーシュ・ダーヒヤー)をアリー・カーンと名乗らせ、パスポートを取得させる。そしてアニースをおびき出す。同時に、アニースの部屋から盗み出した手帳を頼りにアニースの素性を調べる。

 まんまと罠にはまったアニースは、ムンナーをアリー・カーンと思い込み、尾行して来る。ムンナーは彼を警察署近くまで誘導し、そこでボビーと対面させる。しかし、アニースは実は悪人ではなかった。彼は暴動で生き別れになった自分の子供たちを探していただけだった。ニローファルもアミーナーも現在英国にいた。そして彼が探していたアリー・カーンは、実はボビーの友人アフリーンの恋人ラーラー(アルジャン・バージワー)であった。ラーラーは地元の悪党で、ボビーをつけ回していたが、彼女は期せずしてアニースとラーラーの再会を手助けする。

 父の子を思う気持ちを理解したボビーは、自分の父親とも和解をする。こうしてラーラーとアフリーンの結婚式が執り行われた。ボビーは有名な探偵となり、タサッウルとの縁談もそのまま続いていた。

解説

 駆け出しの女探偵が繰り広げるドタバタ劇であったが、まずは舞台のハイダラーバードがとても良かった。プロデューサーのディーヤー・ミルザーがハイダラーバード出身であることがその理由のようだ。監督は元々ムンバイーを舞台にしようとしていたようだが、彼女の提案でハイダラーバードの下町が舞台の映画となったらしい。これは英断であった。劇中何度も登場するチャール・ミーナールはハイダラーバードのシンボルであるし、ムガルプラーという地名も実在する。映画では古都の路地の様子や下町に生きる人々の人間関係が映画に花を添えており、おまけにヒンディー語のハイダラーバード方言であるダキニー語が台詞でふんだんに使われていた。「Bobby Jasoos」の一番の魅力はハイダラーバードにある。

 その一方で、彼女の七変化やストーリーラインにはこれと言ったものがなかった。ヴィディヤーが、男女問わず、乞食を含め様々な職業の人に変装するのは見ていて面白かったが、なぜ彼女がこのような変装テクニックを身に付けたのか、どうやって変装しているのか、などの裏話が一切なく、ストーリーの中に無謀に投げ込まれたギミックという印象を受けた。彼女は次々に難問を解決して行くが、その方法も非現実的で説得力に欠けた。ボビーとタサッウルの恋愛も雑だったし、歌と踊りの使い方も下手だった。これらの点をもう少し丁寧に仕上げていれば、より入り込める映画になっていたことだろう。

 ちなみに、ボビーが目的の人物の探し出すために使った手段はこうだ。右手に痣のあるニローファルを探し出すために、彼女は手を見る機会の多い占星術師やバングル売りなどに変装するが、それだけでは見つからず、英語塾でクラスメイトの手を盗み見る毎日を続け、ようやく見つけ出す。右腕に痣のあるアミーナーを見つけ出すために、偽のTVドラマ・オーディションを行って、「アミーナー」という名前の女性を募集する。そして、この手段で目的のアミーナーが見つかる。

 ヴィディヤー・バーランの演技にしても、コメディーだからか、今回は肩を抜いたものになっており、彼女のキャリア・ベストではなかった。おそらくその気の緩みが変装の甘さにも表れていたのではないかと思う。あまりに可愛すぎるものばかりであったし、動きに迫真性がなかった。こういうトリッキーな演技はヒンディー語映画界ではアーミル・カーンが抜群に巧いのだが、今回の彼女の演技は、そこまで真剣なものではなかった。

  ただ、探偵映画を最後は家族の絆でまとめ上げているところはインド映画ならではであり、これがインド映画の魅力のひとつだと感じた。ボビーは父親と関係が悪いことを気にしており、何とか改善しようと努力するが、父親は自分勝手に生きるボビーとまともに向き合おうとしなかった。しかし、一連の事件の中で、父親の愛の深さを知ったボビーは、自身の父親の奥底に隠された愛情を感じ取ることもできるようになり、最終的に彼の愛も勝ち取ることに成功する。また、父親はボビーが探偵という女らしからぬ職業を目指していることで彼女と距離を置いていたのだが、最終的にはそれを認める。その点から、女性の職業選択の自由を擁護する内容の作品になっていた。

 実はボビーにはモデルがいる。ラジャニー・パンディトというムンバイー在住の女探偵である。父親が警察官だったということもあるが、個人的に人助けなどをしている内に自分が探偵業に向いていると考え始め、遂には本業で探偵を始めたと言う。既に25年のキャリアがある。よって、インドにも実際に女探偵がおり、「Bobby Jasoos」は決して荒唐無稽な物語ではない。

  「Bobby Jasoos」はヴィディヤー・バーラン主演の女探偵映画だ。テーマとしては新しく、ハイダラーバードが舞台という映画は新鮮で、ヴィディヤー主演なら安心して見られる。しかし、プロデューサーや監督が新人だったこともあるのか、細部の作り込みが甘く、興行的にも失敗している。話題性を重視するならば押さえておくべき作品だが、見た目ほど必見の映画ではなかろう。

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