Bulbbul

コルカタ(旧名カルカッタ)のあるベンガル地方は、ノーベル文学賞受賞者ラビーンドラナート・タゴールを生んだ地域である。この地で作られるベンガル語映画はそんな風土を反映してか、文学的な雰囲気のものが多い。もっとも有名なのは、アジアにおいて黒澤明監督と並び称されたサティヤジート・ラーイ(サタジット・レイ)監督の作品群であるが、現代でもそれは当てはまる。それだけでなく、ヒンディー語映画であっても、ベンガル地方を舞台にした映画は、どことなくベンガル語映画の風味を持つことが多いのは興味深い。

 2020年6月24日からNetflixで公開されている「Bulbbul」も、ヒンディー語映画でありながら、ベンガル地方が舞台であり、ベンガル語映画的雰囲気の映画である。



 監督はアンヴィター・ダット。女性であり、2005年から主にヤシュラージ・フィルムスにおいて、作詞家や台詞家として活躍して来た人物だ。本作が監督デビュー作となる。音楽はアミト・トリヴェーディー。主演はトリプティー・ディームリー。「Poster Boys」(2017年)や「Laila Majnu」(2018年)に出演している。他に、「Laila Majnu」でトリプティーと共演したアヴィナーシュ・ティワーリー、ミスター・ヒングリッシュの異名を持つ演技派男優ラーフル・ボース、「Kahaani」(2012年)のパラムブラタ・チャットーパーディヤーイなどがキャストに名を連ねている。また、プロデューサーは女優のアヌシュカー・シャルマーである。

 物語の舞台は19世紀末から20世紀初めにかけてのベンガル地方だ。5歳のブルブル(トリプティー・ディームリー)が嫁いだのは、タークル(地主)の邸宅だった。タークルは双子で、兄はインドラニール、弟はマヘーンドラ(共にラーフル・ボース)と言った。ブルブルはインドラニールと結婚した。マヘーンドラは精神異常があったが結婚しており、既にビノーディニーという妻がいた。インドラニールとマヘーンドラの下には、年の離れた弟のサティヤ(アヴィナーシュ・ティワーリー)がいた。ブルブルとサティヤは年が近かったため、親密となる。また、ビノーディニーは実はマヘーンドラではなくインドラニールと深い関係にあった。ビノーディニーはブルブルとサティヤの仲のことをインドラニールにほのめかし、嫉妬したインドラニールはサティヤをロンドン留学させてしまう。さらに、ブルブルのサティヤに対する気持ちが明らかになると、インドラニールはブルブルの足を鉄の串で突き刺し重傷を負わせる。それを治療したのが医者のスディープ(パラムブラタ・チャットーパーディヤーイ)であった。20年後、ロンドン留学からサティヤが帰って来るが、そのときまでにはマヘーンドラは変死していた。近くの森に住む魔女に殺されたと噂されていた。

 大きな屋敷に住む富裕層のドロドロとした人間模様をネチっこく描くのはベンガル語映画の得意技である。そういう意味で「Bulbbul」はやはり言語がヒンディー語なだけであって、実態はベンガル語映画の特徴を備えている。ただ、そこに魔女というホラー要素を入れたのが新鮮であった。屋敷の内外で次々に人が変死して行くが、その犯人が魔女であるのか、それとも魔女は単なる迷信で、実際は誰かがやっているのか、その辺りがサスペンス要素となる。

 インドらしいのは、魔女が後ろ向きの足を持って描かれていることだ。インドでは、幽霊や魔女の足は後ろ向きに付いていると言われており、このような表象はインド映画で頻繁に見られ、外国の観客には興味深く映る。

 果たして本当に魔女がいるのかどうかについては、ネタバレになるのでここでは書かないが、この映画が問題として取り上げているのはまず、幼児婚の習慣である。現代インドにおいて幼児婚は法律で禁止されており、だいぶ減って来たとは思われるが、「Bulbbul」の舞台となっている100年前のインドではまだまだ健在であった。また、精神異常者のマヘーンドラに嫁いだビノーディニーの存在も、結婚が強制的に行われたことを示唆している。このような社会問題に触れながらも、映画が特に力を入れて描写していたのは嫉妬の連鎖である。ビノーディニーはブルブルに嫉妬し、インドラニールはサティヤに嫉妬し、サティヤはスディープに嫉妬することで、不幸な事件が次々に起こって行く。最終的に、魔女よりも怖いのは人間の負の感情である様が浮き彫りにされていた。

 「Bulbbul」は、ヒンディー語映画ではあるがベンガル語映画的な雰囲気の、大邸宅を舞台にしたホラー風味の人間劇である。お世辞にも深みのある映画とは言えないが、俳優たちの演技は見応えがあり、引き込まれるものがある。

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