Happy Bhag Jayegi

インドとパーキスターンは宿敵同士というイメージも強いのだが、同じ文化を共有する血を分けた兄弟でもあり、両国の間には愛憎入り交じった複雑な感情が横たわっている。時には歩み寄り、時にはいがみ合うが、決して離れられないのが印パの宿命である。印パ関係が比較的良かった時期には、印パ親善を謳った映画が多く作られた。「Bajrangi Bhaijaan」(2016年)はその最たる例であるが、同年である2016年8月19日に公開された「Happy Bhag Jayegi」も、国境を越えたラブストーリーである。とは言っても、インド人とパーキスターン人のロマンスではない。




 監督はムダッサル・アズィーズ。台詞作家や作詞家として「Aashiq Banaya Aapne」(2005年)に関わった後、「Dulha Mil Gaya」(2010年)で監督デビューした人物である。本作は彼の監督2作目となる。プロデューサーは「Raanjhanaa」(2013年)などのアーナンドLラーイである。彼にとっては初プロデュース作品となる。

 主演はアバイ・デーオール、ダイアナ・ペンティー、アリー・ファザル、モーマル・シェーク、ジミー・シェールギル、カンワルジート・スィン、ジャーヴェード・シェーク、ピーユーシュ・ミシュラーなどである。この中でモーマル・シェークとジャーヴェード・シェークはパーキスターン人俳優であり、しかもこの二人は親子関係にある。

 舞台はアムリトサル。地元のゴロツキ政治家バッガー(ジミー・シェールギル)と結婚させられそうになったハッピー(ダイアナ・ペンティー)は、恋人のグッドゥー(アバイ・デーオール)と駆け落ちしようとしていた。ところが手違いからパーキスターン行きのトラックに隠れてしまい、そのまま国境を越えてしまう。そのトラックはラホールの有力政治家ジャーヴェード・アハマド(ジャーヴェード・シェーク)の家に着く。

 ジャーヴェードの息子で若手政治家のビラール(アバイ・デーオール)はハッピーを見つけ、彼女を何とかインドに送り返そうとする。だが、許嫁のゾーヤー(モーマル・シェーク)に見つかってしまい、話がややこしくなる。ゾーヤーは、グッドゥーをラホールに連れて来てハッピーと結婚させることを提案する。そこでビラールは、警察官のアフリーディー(ピーユーシュ・ミシュラー)を連れてインドへ行き、グッドゥーを見つけて、ラホールへ連れて来る。だが、バッガーもハッピーがラホールにいることを知ってしまい、ラホールに乗り込んで来る。こんな物語である。

 まずは、いとも簡単にインド人がパーキスターンへ行き、パーキスターン人がインドへ行くことに驚くかもしれない。印パは分離国家であるが、北朝鮮と韓国のように国境を固く閉ざしてはおらず、二国間関係が良好のときは、比較的気楽に往き来ができる。外国人なら尚更越境は容易である。ただ、映画で描かれていたように、数日でヴィザが出るようなことは難しい。

 ビラールは有力政治家の息子で、「パーキスターンの歴史を変える」政治家になることを父親から期待されているが、彼はベーナズィール・ブットーの息子ビラーワル・ブットー・ザルダーリーをモデルにしていると思われる。

 ハッピーは破天荒な女性で、周囲をトラブルに巻き込む代わりに、周囲の人々から愛されてやまない性格とのことであった。「Cocktail」(2012年)でデビューしたダイアナ・ペンティーが溌剌と演じている。結局ハッピーは、主要な3人の男性キャラである、グッドゥー、バッガー、そしてビラールに恋されることになるのだが、そこまで愛されるような魅力に満ちた女性を演じ切れていたかは疑問であった。それでも、精いっぱいの演技で好感が持てた。

 渋いところでは、ビラールの手足となって働く警官アフリーディーを演じたピーユーシュ・ミシュラーがいい。彼は作詞家でもあり、同じく作詞家出身であるムダッサル・アズィーズ監督と何らかの親交があって本作に出演となったのではないかと思われる。ただ、演技力は一流であり、今回はインドに妙なコンプレックスを抱くパーキスターン人警官を面白おかしく演じていた。

 アフリーディーなどを通して、多少パーキスターンを茶化したようなシーンもあったのだが、基本的には非常に友好的な描写がされており、この時代の二国間関係の良好さを表していると言っていいだろう。パーキスターン人俳優が2人も出演しているのもその表れである。ただ、ラホールのシーンが多いものの、実際にはインドで撮影が行われている。

 それにも関わらず、「Happy Bhag Jayegi」はパーキスターンで上映禁止となった。アフリーディーがマハートマー・ガーンディーの肖像が印刷されたインドの紙幣に敬礼したり、モーマル・シェーク演じるゾーヤーが飲酒するシーンがあったりするが、そういう細かい部分に物言いが付いたようである。台詞の中にも、「タージマハルがパーキスターンにあれば」「マハートマー・ガーンディーがパーキスターンにいれば」などの問題となりそうなものがあった。

 「Happy Bhag Jayegi」は、新人監督ムダッサル・アズィーズによる越境ロマンスである。パーキスターン人俳優も参加し、スクリーンの表と裏で、国境を越えたドタバタ劇が繰り広げられる。まだ印パ関係が比較的良好だった時代に作られた佳作である。

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