Holiday

ーミル・カーン主演の「Ghajini」(2008年)は、しばらくまともなアクション映画がなかったヒンディー語映画界にアクション映画への回帰を促したと同時に、「100カロール・クラブ」というコンセプトの創出や南インド映画リメイクの流行など、様々な影響をもたらした、ヒンディー語映画史上とても意義のある映画である。その監督のARムルガダースは基本的にタミル語映画の監督だが、「Ghajini」をきっかけにヒンディー語映画界にも活躍の場を求めるようになった。

 ARムルガダース監督の最新ヒンディー語映画「Holiday」だ。2014年6月6日に公開された。タミル語映画「Thuppakki」(2012年)のリメイクとされているが、元々ヒンディー語映画のために書かれた脚本だったようで、撮影スケジュールの都合で「Thuppakki」の方が先に完成し公開されることになった。よって、見方によっては「Holiday」の方がオリジナルと見なすこともできる。

 主演はアクシャイ・クマールとソーナークシー・スィナー。この2人の共演は「Rowdy Rathore」(2012年)、「Joker」(2012年)、「Once Upon Ay Time in Mumbai Dobaara!」(2013年)など、多くの映画で共演しており、ヒット率も高い。他に、スミート・ラーガヴァン、フレディー・ダールーワーラー、ゴーヴィンダー、ザーキル・フサインなどが出演している。音楽はプリータム。2014年上半期の大ヒット作である。

Holiday

 

 9/11事件以来、テロやテロリストを扱った映画が増えたが、「Holiday」では特にスリーパー・セルの問題を取り上げていた。スリーパー・セルとは、普段は通常の生活をし、テロリストから指令があったときにテロ活動に従事する人々のことだ。彼らはテロ組織の末端であり、全体の計画を知らされていないことがほとんどで、スリーパー・セルを捕まえて尋問してもテロ組織の構成や計画などは分からない。だが、テロの実行犯であり、スリーパー・セルを永遠に眠らせることがテロ撲滅に必要であることがこの映画で発信されていたメッセージのひとつだと言える。

あらすじ

 インド陸軍のヴィラート・バクシー(アクシャイ・クマール)は、国防諜報局(DIA)の諜報部員だったが、彼の同僚も家族もそのことは知らなかった。ヴィラートは、毎年40日間もらえる休暇を家族と共に過ごすためにムンバイーに戻って来た。両親はヴィラートの結婚を心配しており、駅に着いたヴィラートを軍服のままお見合い相手の家に連れて行く。ヴィラートがお見合いしたサーイバー(ソーナークシー・スィナー)は伝統的な女性のように見えて、ヴィラートは興味が沸かなかった。ヴィラートは早速自分で断りの電話を入れる。ところが後からサーイバーの本性が分かる。お見合い時の雰囲気とは正反対の跳ねっ返りで、ボクシング、ラグビー、バレーボール、テニスなど、数々のスポーツをこなすアクティブな女性だった。ヴィラートはサーイバーに惚れてしまい、今度は求婚をし出す。しかし、一度断りを入れてしまったため、スムーズに行かなかった。サーイバーはヴィラートとお見合いした後、別の男性とお見合いして結婚を承諾しており、それが最大の障壁だった。ヴィラートはその許嫁に直談判に行くが、なんと直属の上官プラタープ(ゴーヴィンダー)であった。ヴィラートは上下関係の厳しい軍隊に身を置いており、上官には逆らえなかった。しかしながら、プラタープは幼馴染みと結婚することを決め、ヴィラートとサーイバーの結婚を勧める。そのおかげで2人はすぐにでも婚約式を行うことになった。

 ところで、休暇中にヴィラートは、たまたまムンバイーの街中で爆弾を爆発させたテロリストを捕まえていた。一度警察に引き渡したものの、すぐに脱走されてしまったため、彼は自分で捕まえて自宅に連行し、閉じ込めて尋問した。それによって、テロリストがスリーパー・セルを使ってムンバイーの12ヶ所で爆弾を同時に爆発させる計画を立てていることを察知する。ヴィラートは、親友の警部補ムクンド(スミート・ラーガヴァン)や、同僚の結婚式に参列するために集った同じ隊の軍人仲間11人と共にテロの阻止に乗り出す。ヴィラートは、捕まえたテロリストをわざと逃がし、彼が接触する人物を全て尾行させ、爆弾を爆発させる直前に一斉に射殺させた。これは、スリーパー・セルの司令塔(フレディー・ダールーワーラー)に対する宣戦布告のメッセージだった。

 ヴィラートの狙い通り、司令塔はムンバイーにやって来て直接作戦の指揮を執るようになった。司令塔は12人の射撃手が背広を着ていたとの情報から、結婚式に出席していた軍人たち数組を割り出す。そして各組から1人の軍人の近親女性を誘拐して、射撃手を特定しようとする。ヴィラートはそれを逆手に取り、妹をわざと誘拐させて、隠れ家を見つけ出す。そこに集っていたスリーパー・セルの人員たち16人を殺し、そのまとめ役を連行するが、それは司令塔ではなかった。司令塔は、どの組の軍人が射撃手かは特定したため、今度は一人一人を殺そうとする。だが、ヴィラートはそれを制止し、自分が出向くことにする。その前にヴィラートはサーイバーとの婚約をキャンセルする。

 ヴィラートは、数台の自動車を乗り継いでムンバイー中を移動させられ、最終的にアラビア海に浮かぶ船の上に連れて行かれる。そこで司令塔と初めて顔を合わせる。ヴィラートは部下に自分を尾行させており、強力な爆弾を設置させていた。船ごと爆破して殉死しようと考えていたのである。だが、アルヴィン・デスーザ国防次官補(ザーキル・フサイン)がテロリストの一味であることや、ヴィラートが運転した自動車の中には爆弾が仕掛けられており、彼がテロリスト扱いされることなどを知り、生きて帰ることを決める。一時は殺されそうになるが、ヴィラートは隙を見て反撃を開始し、司令塔を殺して船を爆破する。また、アルヴィンに自殺を迫る。

 こうして、40日間の休暇の間にヴィラートは人知れずテロ事件を阻止し、サーイバーとの結婚も済ませ、また任地であるカシュミールへ向かうことになった。

解説

 おそらくヒンディー語映画向けにかなりローカライズしたと思うのだが、まだ南インド映画のテイストは残っており、ダンスシーンの入り方やロマンスシーンの挿入方法などに違和感があった。それでも、いくつか非常に明確なメッセージが感じられ、娯楽映画としてもまとまっていたと思う。

 まず、この映画が訴えていたのは、前述の通り、スリーパー・セルの存在である。我々の隣人や友人などに、テロリストの協力者であるスリーパー・セルがいる可能性を示唆し、市民が普段から警戒しなければいけないと警鐘が鳴らされていた。同時に、スリーパー・セルは指示さえなければずっと眠ったままなので、司令塔を潰すことで機能不全に陥らせることができることも示されていた。つまり、テロの実行犯よりも、テロをさせている人物の特定と殲滅をしなければテロは止まらないということだ。これがどこまで真実かどうかは分からないが、スリーパー・セルという言葉がここまで何度も繰り返された映画は初めて見た。「Holiday」の中心テーマはスリーパー・セルだったと言っていいだろう。

 それに加えて、「国のために命を犠牲にする」ということの意義が説明されていた。近年のテロは、テロリストが自分の命と引き替えに大勢の市民を無差別に殺害するスタイルが定着している。ヴィラートは、もしテロリストがテロをするために命を差し出すのならば、軍人も警察も、そして一般市民も、テロを阻止するために自分の命や近親者の命を差し出すことを躊躇してはならないと語っていた。それを証明するように、ヴィラートはテロリストの隠れ家を特定するために実の妹を危険にさらしており、スリーパー・セルの司令塔を殺すために自分の命も犠牲にしようとした。

 戦闘などによって負傷し、身体障害者となった傷痍(しょうい)軍人にもスポットライトが当てられていた。殉死した軍人は国から勲章が出たりして最大限の尊重を受けるが、どうやらインドでは傷痍軍人に対する扱いは低いようである。だが、彼らも国のために自らの体を犠牲にした誇り高き愛国者であり、彼らの顔には少しの後悔や悲哀の色もないことが示されていた。また、ヴィラートは警察犬を引き取っていた。この犬は練習中に怪我をし、任務遂行ができないということで、捨てられようとしていたのだった。この犬も傷痍軍人と関係していると言っていいだろう。テロリストの隠れ家を見つけるのにこの犬が大活躍するし、スリーパー・セルの司令塔に辿り着くためにヴィラートは車椅子に乗った傷痍軍人たちをフルに活用する。

 これらのシリアスなテーマと比べて、ヴィラートとサーイバーの恋愛は場違いに感じた。おそらく最近のヒンディー語映画監督だったら、ヴィラートは独身ではなく既婚者として設定し、その妻としてサーイバーを登場させて、軍人の家族や夫婦関係の在り方について模索するところだっただろう。これを恋愛にしてしまったところに南インド映画との感性の違いを感じるし、僕の個人的な見方では、現在の南インド映画の限界を感じる。

 ただ、映画の最後、列車に乗って任地へ向かって行く兵士たちを家族が見送るシーンは出色の出来だった。きっと軍人が見たら涙することだろう。このときに流れる曲「Ashq Na Ho」の歌詞も素晴らしい。冒頭は「来年、もし戻らなかったら、この制服が涙するなと語るだろう」となっている。

 ところで、ヴィラートはインド陸軍の中にあって、国防諜報局(DIA)のエージェントも兼任していた。初耳だったのだが、これは実在する部署であった。インド陸軍のために諜報活動を行う機関のようで、1999年のカールギル戦争での諜報活動の不備を受けて2002年に創設されたようだ。最近のヒンディー語映画ではインドの対外諜報機関である研究分析局(RAW)のエージェントがよく登場するようになったが、DIAのエージェントはおそらく初めてであろう。

 また、一ヶ所ロケ地で特定できたものがあった。劇中で最も美しいラブソング「Shaayraana」のダンスシーンの背景として砂漠や城が出て来るが、これはたまたま今年3月に訪れたキームサルである。おそらく我々が訪れるより前に撮影は行われていたと思うが、アクシャイ・クマールとソーナークシー・スィナーが来たという情報は現地では得られなかった。それはともかくとして、自分の知っている場所が映画で使われると嬉しいものだ。

 「Holiday」は、南インド映画的、と言っていいのか分からないが、大味なところがあったのは否めない。だが、メッセージが明確で、娯楽映画としても十分楽しめる内容となっていた。大ヒットとなったのも分かる。

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