Humpty Sharma Ki Dulhania

ラン・ジョーハル監督の「Student of the Year」(2012年)は、日本でも劇場一般公開された作品であるが、映画としての質は、ジョーハル監督の過去の作品と比べて、必ずしも最高傑作とは評価しづらかった。しかしながら、彼のスター性を見抜く鑑識眼はさすがで、同映画でデビューした3人の若手俳優たちは、皆現在成長株となっている。

 2014年7月11日公開の「Humpty Sharma Ki Dulhania」は、「Student of the Year」でデビューした2人――ヴァルン・ダワンとアーリヤー・バット――が主演のロマンス映画である。カラン・ジョーハルがプロデューサーを務めている。監督は新人のシャシャーンク・ケーターン。映画業界にコネがある訳でもなく、下積みがあった訳でもないようなのだが、ジョーハルに脚本を持ち込んだら監督を任されたという、ラッキーガイである。作曲はサチン・ジガルとシャリーブ・トーシー。作詞はイルシャード・カ-ミルとクマール。ヴァルンとアーリヤー以外のキャストには、アーシュトーシュ・ラーナー以外、有名な俳優はいない。新人のスィッダールト・シュクラーに加え、アーディティヤ・シャルマー、ディーピカー・アミーン、メヘナーズ・ダマニヤー、ガウラヴ・パーンデーイ、サーヒル・ヴァイド、ケニー・デーサーイー、グンチャー・ナルラー、シヴァーニー・マハージャンなど。ちなみに、題名の意味は「ハンプティー・シャルマーの花嫁」である。

Humpty Sharma Ki Dulhania

 

あらすじ

 ハリヤーナー州アンバーラー在住のカーヴィヤー(アーリヤー・バット)は、父親プラタープ・スィン(アーシュトーシュ・ラーナー)が決めた米国在住の在外インド人(NRI)、アンガド(スィッダールト・シュクラー)とアレンジド・メリッジをすることになった。姉のスワーティー(メヘナーズ・ダマニヤー)が恋愛結婚をして失敗し出戻っており、恋愛結婚は御法度であった。カーヴィヤーはせめて結婚式で着るレヘンガーは自分の希望通りデザイナー製のものがいいと主張する。デリー在住の友人グルプリート(グンチャー・ナルラー)が結婚式で20万ルピーのデザイナー製レヘンガーを着ると知り、彼女は50万ルピーのレヘンガーを希望した。それが認められないと、単身デリーに乗り込んで何とか50万ルピーのレヘンガーを手にしようとする。

 カーヴィヤーはデリー大学で教鞭を執る叔父の家に宿泊する。そこで出会ったのが、デリー大学に通うラーケーシュ・シャルマー、通称ハンプティー・シャルマー(ヴァルン・ダワン)であった。彼の父親(ケニー・デーサーイー)は大学キャンパスで書店を経営していた。ハンプティーはこのままでは落第確実だったため、カーヴィヤーの叔父を脅迫して何とか単位を手にしようとしていたのだった。

 ハンプティーは、カーヴィヤーが50万ルピーのレヘンガーを買いにデリーに来ていることを知り、彼女に協力する。また、グルプリートが元恋人に付きまとわれていることも察知し、彼女を助ける。おかげでグルプリートは幸せな結婚式を挙げることができた。これらの出来事を通し、2人は相思相愛の仲になり、一夜を共にする。しかし、カーヴィヤーは自分の結婚式のためにアンバーラーに帰って行く。

  ハンプティーはカーヴィヤーのことを諦めきれず、親友のションティー(ガウラヴ・パーンデーイ)やポプルー(サーヒル・ヴァイド)と共にアンバーラーに乗り込む。プラタープは彼らの目的をすぐに察知し、カーヴィヤーの兄ランジート(アーディティヤ・シャルマー)らにこっぴどく殴られてデリーに送り返される。だが、ハンプティーは再びアンバーラーに戻って来る。そこでプラタープは彼にひとつ挑戦をする。これからやって来る花婿のアンガドを世話し、彼の弱点をひとつでも見つけられたら、カーヴィヤーとの結婚を許可するというものだった。ハンプティーはその挑戦に受けて立つ。

 ところがアンガドはどこから見ても完璧な男性だった。ハンサムで、身長も高く、素晴らしい肉体を持っている。医師で、スポーツ神経も抜群、料理までプロ並みの腕前。おまけに性格まで良い。ハンプティーは勝てるところが見つからなかった。一時、アンガドがゲイではないかという疑惑も沸き、ハンプティーは希望を持つが、それもガセネタだった。ただ、ハンプティーはカーヴィヤーの家族と共に過ごす内に、家族のメンバーから徐々に信頼を勝ち得ていく。また、プラタープも、ハンプティーがデリーでグルプリートを助けたことを知る。アンガドとディナーに出掛けたカーヴィヤーが悪党にからかわれたとき、アンガドが穏便に済ませようとしたのに対し、駆けつけたハンプティーが悪党と乱闘を繰り広げるという事件もあった。

 とうとう結婚式の日が来てしまった。その日の朝、カーヴィヤーが失踪する。当然ハンプティーが連れて逃げたと思われるが、彼も家の中にいた。ハンプティーはカーヴィヤーを探しに出る。カーヴィヤーはアンバーラー駅にいた。ハンプティーは彼女を列車から降ろし、説得しようとするが、そのときプラタープたちもやって来る。ハンプティーは自分の方がカーヴィヤーを幸せにできると熱弁し、カーヴィヤーを残してデリーに帰って行く。

 一連の出来事の中でプラタープはハンプティーを娘の花婿と認め、自らデリーに赴いてハンプティーを迎える。カーヴィヤーもバーラートを引き連れてデリーまで来ていた。こうして2人は結婚する。

解説

 映画の序盤でシャールク・カーン主演の大ヒット映画「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年)のシーンが登場するが、「Humpty Sharma Ki Dulhania」は、「Dilwale Dulhania Le Jayenge」のストーリーを現代的に焼き直したロマンス映画であった。しかし、「パクリ」とか「二番煎じ」と言った安易な言葉で切って捨てていい映画ではない。20年前のインドと現代のインドの世相をうまく対比できるように、随所に工夫があり、ロマンス映画としても完成していて、新人監督の作品とは思えない安定感があった。

 ヒロインの我の強さは20年前の映画との大きな違いであろう。「Dilwale Dulhania Le Jayenge」でカージョールが演じたヒロイン、シムランのキャラは、当時としては個性が立っていた方だと思われるが、それでも最近のヒンディー語映画のヒロインは、添え物としての立場を完全に脱却しており、ともすると主演男優を押しのけて映画を背負って立っていることも多い。「Humpty Sharma Ki Dulhania」は、題名に主役男性の名前が入っているものの、むしろ映画を通して事件の中心にいたのはヒロインのカーヴィヤーの方である。言い争いで絶対に男に負けず、悪戯をして来る男たちには勇敢に立ち向かう。アンバーラーという、デリーと比べて田舎の町の出身ながら、大都市デリーに来ても全く物怖じしない。男たちと同じ部屋で男たちと共に雑魚寝することも厭わない。そして一ヶ月で何としてでも50万ルピーを調達するという無謀な計画を何の疑問も感じず遂行する。正に現代のヒンディー語映画に典型的なヒロイン像である。

 冒頭で掲げた映画ポスターも示す通り、男女逆転の恋愛と結婚をアピールしているところもある。ハンプティーは女たらしの性格という設定のはずだが、カーヴィヤーとの恋愛は完全にカーヴィヤーが主導権を握っていた。キスの主導権すらもカーヴィヤーが握っていたし、二人の結婚式も新郎新婦が逆転していた。通常は花婿がバーラート(花婿側参列者)と共に花嫁の家を訪れるのであるが、ラストシーンでは花嫁のカーヴィヤーが花婿のハンプティーの家をバーラートと共に訪れるのである。

 映画の中で一番の名台詞を吐くのもカーヴィヤーだ。「愛が何か分からなかったとき、(結婚式で着る)レヘンガーの価格を気にした。だが、愛を理解したら、レヘンガーの値段はどうでも良くなった。」この言葉が、揺れていた父親の心を最終的に動かし、ハンプティーとの結婚へのゴーサインにつながる。

 それを思うと、映画の題名は、「ハンプティー・シャルマーの花嫁」ではなく、「カーヴィヤー・スィンの花婿」にすべきであった。そういえば、女性が主導権を握る似たようなロマンス映画「Tanu Weds Manu」(2011年)の題名は、元々「Manu(男) Weds Tanu(女)」であったらしい。だが、ストーリー内容から現行の題名の方がふさわしいということになり、変更されたと言う。「Humpty Sharma Ki Dulhania」も、異なる題名にした方が良かったかもしれない。

 「Dilwale Dulhania Le Jayenge」では、ロンドンで生まれ育ったNRIの若者がインドへ行って帰省中のロンドン出身インド人女性と結婚するというストーリーだった。その際、女性にはインド育ちの許嫁が存在した。それに対し、「Humpty Sharma Ki Dulhania」では、デリーで生まれ育ったローカル・インド人が、米国在住のNRIとの花婿競争を勝ち抜き、アンバーラー出身のインド人女性と結婚するという筋書きであった。90年代から00年代初頭のヒンディー語映画はNRI市場に依存しており、映画の中でもNRIが主人公であったり、NRIがいいところを持って行ったりする展開が好まれた。しかし、マルチプレックスの普及によって国内市場が拡大し、映画も国内市場を念頭に置くように回帰した。NRIの登場人物は徐々に外枠に置かれるようになり、ローカルのインド人にスポットライトが戻って来た。「Dilwale Dulhania Le Jayenge」から「Humpty Sharma Ki Dulhania」への旅は、そのままこの20年間に起こったインドの変化を示している。

 アレンジド・メリッジと恋愛結婚の対立構造はインド製ロマンス映画の伝統だ。「Humpty Sharma Ki Dulhania」もその構造を堅守していた。ただ、20年前のものがそのまま死守されている訳ではなく、時代に合わせてその姿は若干変化して来ている。

 例えばカーヴィヤーはアレンジド・メリッジに反対ではなかった。ただ、意中の人がいる訳でもない。一般的なインドのロマンス映画では、好きな人がいるのにお見合いをさせられるという展開が多いのだが、少なくとも「Humpty Sharma Ki Dulhania」の序盤ではそういうことがなかった。その代わり、カーヴィヤーはアレンジド・メリッジに漠然とした不安を抱いており、50万ルピーのレヘンガーを買うことを口実に、結婚式の1ヶ月前にデリーをうろついていたのだった。おそらく、このときのカーヴィヤーの気持ちは、より多くのインド人女性の心情に近いものがあるのではないだろうか。ただし、ハンプティーと出会い、恋に落ちてからは、伝統的なアレンジド・メリッジvs恋愛結婚の構図となる。

 姉が恋愛結婚をして失敗しており、その影響で家族が恋愛結婚を禁じているという展開も時代を感じさせる。最初から恋愛結婚に反対ではないのである。同様の設定は「Kambakkht Ishq」(2009年)などでも見られた。何が何でも恋愛結婚に反対というのはさすがに時代に合わなくなって来ているのかもしれない。過去に恋愛結婚の失敗体験があり、それが原因で恋愛結婚を否定しているという展開の方がよりグローバルに受け容れられやすいだろう。

 カーヴィヤーの父親プラタープ自身が恋愛結婚をしている、というのはトリッキーな設定であった。彼もハンプティーと同様に好きな女性と結婚するためにあらゆることをし、最終的にカーヴィヤーの母親と結婚している。よって、彼にはハンプティーの下心が手に取るように分かったし、最後には彼を認めることもできた。

 カーヴィヤーがアンガドとの結婚式を前にしてハンプティーと敢えて肉体関係を結ぶシーンは、正に現代のインド映画の象徴であろう。この辺りの線引きはかなり緩くなったと感じる。しかも割と淡々と描写されていたことに驚いた。「Band Baaja Baaraat」(2010年)では「カーンド」と呼ばれ、事件化されていたのだが・・・。

 撮影の一部はムンバイーでも行われたようだが、主な舞台となったのはアンバーラーとデリーであり、実際にロケもこれらの都市で行われた。ムンバイー色は一切無い。ヒンディー語映画界ではここ5年以上、北インドを舞台にした映画がトレンドとなっており、ムンバイー舞台の映画が古臭く映るほどまでになって来ている。

 音楽も良かった。結婚式の一儀式サンギートをディフォルメしていると思われる「Daingad Daingad」はストーリーに組み込まれた曲だったし、ディスコソング「Lucky Tu Lucky Me」は若者受けしそうだった。

 この映画で最も試されていたのはヴァルン・ダワンであろう。アーリヤー・バットは「Student of the Year」の後、「Highway」、「2 States」と良作への出演を続けており、高い演技力も既に証明している。一方のヴァルンは、「Student of the Year」後の「Main Tera Hero」(2014年)がそこまで振るわず、ここで踏みとどまっておかなければ、同時デビューしたもう一人の男優スィッダールト・マロートラーに置いていかれるところだった。スィッダールトの方は「Hasee Toh Phasee」(2014年)と「Ek Villain」(2014年)をヒットさせている。そんな中、彼の演技は合格点だったと言えるだろう。

 それにしても同性愛ネタが挿入されていたが、これはカラン・ジョーハルの悪戯であろうか。彼は自身にゲイ疑惑が掛けられているのだが、それをあざ笑うようにゲイ・ネタを映画の中に入れ込んで来る。「Student of the Year」でもそうだった。さすがにゲイ・ネタの取り扱いはお手の物で、ライトな笑いが散りばめられた「Humpty Sharma Ki Dulhania」の中でも秀逸なコミック・シーンとなっていた。

 「Humpty Sharma Ki Dulhania」は、突然カラン・ジョーハルから監督を任されたという新人シャシャーンク・ケーターンのロマンス映画。主演が若手で、脇役にもそこまで知名度のある俳優がおらず、ヴァルン・ダワンとアーリヤー・バットの才能とケミストリーに成否の大部分を依存する作品だった。だが、「Dilwale Dulhania Le Jayenge」から20年経ったインドの恋愛事情をうまく捉えており、興行的にもヒットとなって、多くのことがうまく噛み合った幸運な映画だと言える。2014年のオススメ映画の一本だ。

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