Kapoor & Sons

ンド映画の基本は家族礼賛であり、映画の中で家族の大切さが様々な形でしつこく主張される。これは、インド映画がメインターゲットとする観客がファミリー層だからだ。インド映画は、テレビとビデオが家庭に普及した80年代に、テレビとビデオを買えない貧困層の娯楽に成り下がるという暗黒期を経験した。また、それ以前からインドの社会の中で映画を社会悪として考える固定観念も強かった。その反動から、90年代、業界が復興期に入ったとき、ヒンディー語映画関係者たちは、映画館に家族層を呼び込むことに腐心した。家族客が安心して楽しめる映画が好まれるようになり、極度の不幸、争い、暴力などが排除された、ハッピー進行、ハッピーエンディングの映画が大量生産された。裕福な家庭の結婚式の様子がカラフルに描写される、1994年の大ヒット作「Hum Aapke Hain Koun…!」はその典型である。

 21世紀に入り、ヒンディー語映画は大きく変わった。それに伴って、新しい家族映画も生まれた。その先鞭を付けたのが、英語映画にはなるが、「Monsoon Wedding」(2001年)だったと感じる。インド各地、世界各国に散らばっていた家族親戚が、結婚式を機に久しぶりに集合するが、それはそれぞれに問題を抱えての再会だった。様々な事件が起こる中で、ある問題は解決され、ある問題はそのままになるが、それでも最後には何とか一族がまとまる。このような家族映画では、特定の主人公がいる訳ではなく、各登場人物がそれぞれにエピソードを持ち寄る形になる。そしてその方がより現実に近いし、深みのある作品になることが証明された。

 2016年3月18日公開の「Kapoor & Sons」は、どちらかと言うと「Monsoon Wedding」の流れを汲むヒンディー語映画だ。久々の再会、問題の噴出、そしてその解決と、全体の流れは「Monsoon Wedding」に近い。監督はシャクン・バトラー。「Ek Main Aur Ekk Tu」(2012年)で監督デビューした人物で、本作が監督2作目となる。過去には「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)や「Rock On!」(2008年)で助監督も務めていた。作曲はアマール・マリク、バードシャー、アルコ・プラヴォ・ムカルジー、作詞はバードシャー、クマール、マノージ・ムンタシル、ドクター・デーヴェーンドラ・カーフィル、アビルチ・チャーンド。

Kapoor & Sons

 

 キャストは、リシ・カプール、ラトナー・パータク・シャー、ラジャト・カプール、ファワード・ハーン(パーキスターン人俳優)、スィッダールト・マロートラー、アーリヤー・バットなど。

あらすじ

 タミル・ナードゥ州の避暑地クーヌールのバンガローに住むカプール家の最年長アマルジート(リシ・カプール)は、長男ハルシュ(ラジャト・カプール)、その妻スニーター(ラトナー・パータク・シャー)と共に暮らしていた。アマルジートが90歳の誕生日を前に心臓発作を起こし入院したため、ハルシュとスニーターの長男で英国在住のラーフル(ファワード・ハーン)に連絡が行く。ラーフルは米国在住の弟アルジュン(スィッダールト・マロートラー)に連絡をし、共に故郷に帰ることになる。ラーフルはベストセラーを持つ小説家だった。一方、アルジュンも小説家を目指していたが、なかなか売れず、現在はバイトをして生計を立てていた。だが、アルジュンは、ラーフルのベストセラー小説のプロットが自分の書いたものとよく似ていることを気にしていた。もっとも、それを本人の前で口に出すことはなかった。

 クーヌールに戻ったラーフルとアルジュンは、別々の機会に明朗快活な女の子ティア・マリク(アーリヤー・バット)と出会う。ティアは最初、ラーフルに惹かれており、ふとした瞬間に彼にキスをしてしまうが、後に彼女はアルジュンとデートを重ねるようになる。ティアが、ラーフルとアルジュンが兄弟であることを知るのは、だいぶ後になってからのことだった。

 アマルジートの90歳の誕生日、彼は退院することになり、カプール家はバンガローで誕生日パーティーを企画した。ところが、そのパーティーにハルシュが不倫相手のアヌを招待したことでスニーターの怒りを買い、バーティーはお開きになる。その後、ハルシュの弟の家族がクーヌールに到着したことで、アマルジートは家族の集合写真を撮ろうとするが、そこで様々な問題が一気に噴出する。ハルシュとアヌの関係がまだ続いていること、ラーフルとティアがキスをしたこと、ラーフルがゲイであること、ラーフルがベストセラー小説のアイデア源としたのはやはりアルジュンの原稿だったが、それはスニーターがラーフルに渡していたことなどなどである。カプール家の各メンバー間の亀裂は回復不可能なほど深まってしまった。その混乱の中でハルシュは交通事故に遭って命を落とす。ラーフルとアルジュンは葬儀の後、それぞれの場所へ帰って行く。

 4ヶ月後、ラーフルとアルジュンはアマルジートから再びクーヌールに呼ばれる。2人はそれに応じ、クーヌールに戻る。そこでアマルジートは再び集合写真を撮ろうとする。既にハルシュはいなかったが、ハルシュの等身大写真が用意された。こうして、アマルジートのかねてからの夢だった、カプール家の集合写真が完成する。

解説

 90年代の家族映画では理想的な父親、理想的な母親、理想的な兄弟姉妹、つまりは理想的な家族の姿が描かれることが多かったが、「Monsoon Wedding」の流れを汲む「Kapoor & Sons」では、一人として理想的な家族構成員はいない。心臓発作を起こしながら異常なまでにテンションの高い祖父、事業に失敗し自信を失っている一方で不倫をしている父親、口うるさくトラブルメーカーの母親。「パーフェクトな子」として母親から可愛がられていた長男にしても、盗作して小説家になった上に、ゲイということで、母親の期待を裏切る。もっともニュートラルなのは次男のアルジュンだが、彼にしても、何をやっても長続きせず、人生でなかなか成功を掴めずに悶々としている駄目人間だ。久々の再会を機に、家族の中でくすぶっていた問題が一気に噴出し、かろうじて均衡を保っていた家族内の人間関係は崩壊する。だが、結局は「雨降って地固まる」の言葉通り、家族は団結する。もっとも、父親のハルシュはそれを見ることなくこの世を去ってしまった。

 タミル・ナードゥ州の山間にある避暑地クーヌールを舞台にしており、家族の外の人間関係は最小限に抑えられている。「Monsoon Wedding」のように結婚式、つまり他の家族のエントリーが一家集合のきっかけとなっている訳でもない。ティアの介入が、前々からあったラーフルとアルジュンの間の確執を一時的に深めはするが、それはカプール家が直面する種々の問題の中では重大なものではなく、すぐに解決されてしまう。よって、三角関係のロマンス映画とは言えない。ハルシュの不倫やラーフルの「恋人」は外との接点と言えるが、映画の中で中心的に描写されていた訳ではなく、むしろどちらも突然浮上する。総じて、カプール家内部のゴタゴタを中心にストーリーが進み、カプール家の融和によって映画は幕を閉じるのであり、やはり「家族映画」と呼ぶしかない映画だ。

 しかしながら、ともすると家族映画は、何を楽しんだらいいのか分からなくなるという欠点もある。まず家族の紹介があり、次に家族内で不和が起こり、それが何らかの形で最後に解決する。料理の仕方によって、ドラマにもコメディーにもなり得るが、下手すると何ににもならないこともある。「Kapoor & Sons」は、どちらかと言うと何ににもならなかった映画のように感じた。カプール家のメンバーが皆エキセントリックだったために、人物設定で面白さを出せていたかもしれないが、大きなツイストは終盤になってようやく起こり、それまでストーリーは停滞している。ポスターなどはコメディー映画のように見えるが、実際にはドラマの要素の方が強く、思いの外ヘビーな映画だ。そして、ハルシュの不倫問題が彼の死によってウヤムヤになったり、ラーフルのゲイ問題が流されていたりして、全部丸く収まった訳でもない。人生とはそういうものだ、と言ってしまえばそれまでだが、そういうものだからこそ、物語には何か違ったものを求める、というのが普通ではなかろうか。

 ただ、思い返してみれば、シャクン・バトラー監督の前作「Ek Main Aur Ekk Tu」も、大して事件が起こらない映画だった。しかもヒーローとヒロインが最後に結ばれないという肩すかしを堂々とやってのけた。その流れで「Kapoor & Sons」を解釈すれば、監督の趣向が見えてくるかもしれない。家族はいろいろあるし、丸く収まらない問題もあるけど、でもやっぱり家族は家族だよね、そんな肩の力が抜けたメッセージを感じ取れればOKなのだろう。

 演技の面では、アーリヤー・バットが目立った。彼女が親の七光りのおかげで映画業界に入ったのは厳然たる事実だ。彼女が演じるキャラも、どこか脳天気な役が多い。だが、驚くべき演技力を見せることがあり、注目せざるを得ない。今回、ゾクッとしたのは、ティアが両親の死の詳細をアルジュンに語るシーンだ。表情の作り方、間の取り方、泣くタイミング、どれも完璧だ。彼女の演技からは天性のものを感じる。スィッダールト・マロートラーやファワード・ハーンも決して悪くはなかったが、アーリヤーの成長が早すぎて、彼らに不利だと思えるほどになっていた。また、リシ・カプールは特殊メイクをし過ぎてして、最初リシ・カプールだと気付かなかった・・・。

 青春映画でもないし、ロマンス映画でもないのだが、ダンスシーンや挿入歌が入るシーンはきちんと用意されており、しかも爽快な曲が多い。何と言ってもアルジュンとティアの出会いシーンに流れるパーティー・ソングの「Kar Gayi Chull」が秀逸であるし、アマルジートの誕生日パーティーで流れる「Buddhu Sa Mann」も聴き心地の良い軽快なナンバーだ。歌詞が美しいのは「Saathi Rey」だ。ハルシュの葬儀の場面で流れる。

 ちなみに、映画の舞台となっているクーヌールは、標高1850mにある避暑地で、ニールギリ・ティーの産地だ。ただ、カプール家はパンジャービーの一家である。台詞の端々から推測されるのは、アマルジートが元軍人で、退役後にクーヌールのバンガローに移住したという経緯である。クーヌールの近くにはウェリントン・カントンメントという陸軍駐屯地があり、現役時代はそこの勤務だったのだろう。クーヌールには名門学校も多く、ラーフルとアルジュンもここで教育を受けた後、それぞれ海外に旅立って行ったと思われる。よって、南インドのこの避暑地に北インド人が住んでいることに奇妙な点はない。

 「Kapoor & Sons」は、ヒンディー語映画が築き上げて来た家族映画の伝統の上に立ちながら、シャクン・バトラー監督独特の「ほとんど何も起こらない」展開が印象に残る作品だ。コメディー映画っぽく見えるが、ドラマの要素の方が強く、結構ヘビーな場面もある。今後バトラー監督が同じような路線の映画を作り続けるならば、この「何も起こらなさ」は故意のものであり、彼の映画のユニークさと評することができるようになるだろう。また、アーリヤー・バットの演技が光っている。

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