Phata Poster Nikhla Hero

21世紀に入り、ヒンディー語映画界は新たな段階に入った。それを牽引するのは、若い映画監督やかつて芸術映画を撮っていた人々である。その一方で、90年代の娯楽映画を担っていた監督にとっては生きにくい時代になって来ているようにも感じる。2013年9月20日公開の「Phata Poster Nikhla Hero」の監督はラージクマール・サントーシー。90年代に「Ghayal」(1990年)、「Damini」(1993年)、「Andaz Apna Apna」(1994年)などのヒット作を作り、扇情的な台詞でよく知られた監督だが、21世紀に入ってからはパッとしない。そもそもトップ女優4人を起用した野心作「Lajja」(2001年)が大コケしたことがケチの付き始めで、「Khakee」(2004年)や「Ajab Prem Ki Ghazab Kahani」(2009年)などのヒット作はあるものの、ヒンディー語映画の発展に寄与したり、トレンドを生み出したりする種類の作品は送り出せていない。

 「Phata Poster Nikhla Hero」の主演はシャーヒド・カプール。ヒロインは「Barfi!」(2012年)でヒンディー語映画デビューした南インド映画女優イリアナ・デクルーズ。他にパドミニー・コーラープレー、ダルシャン・ジャリーワーラー、サウラブ・シュクラー、サンジャイ・ミシュラー、ザーキル・フサイン、ムケーシュ・ティワーリーなどが出演。「Rockstar」(2011年)でデビューしたナルギス・ファクリーがアイテムガール出演している他、サルマーン・カーンがカメオ出演している。ちなみにサルマーンはサントーシー監督の前作「Ajab Prem Ki Ghazab Kahani」でもカメオ出演している。音楽はプリータム。作詞はイルシャード・カーミルとアミターブ・バッターチャーリヤ。題名の「Phata Poster Nikhla Hero」とは、「ポスターが破れ、ヒーローが飛び出て来た」という意味である。

Phata Poster Nikhla Hero

あらすじ

 マハーラーシュトラ州の田舎町で、オートリクシャー運転手のサーヴィトリー(パドミニー・コーラープレー)に女手ひとつで育てられたヴィシュワース・ラーオ(シャーヒド・カプール)は、映画スターになることを夢見ていたが、母親からは警察官になることを強制されていた。ある日、ムンバイーで警察官採用試験が行われることになり、ヴィシュワースはムンバイーに向かう。だが、彼はムンバイーで映画スターになるための活動を始めた。脚本家ジャッキー・バーイー(サンジャイ・ミシュラー)のゲストハウスに下宿することになり、まずはプロフィール写真を撮影する。そのときたまたま警察官の制服を着て外に出たら、悪漢にさらわれそうになっていた女性を助けることになり、第一報者の女の子カージャル(イリアナ・デクルーズ)と知り合いになる。カージャルは、目にした不正をことごとく通報することで警察官からも恐れられていた。

 ヴィシュワースは必死のアピールのおかげで悪役をゲットし、映画俳優への道を歩み始めていた。ところが、ヴィシュワースが警察官に採用されたと勘違いした母親がムンバイーに様子を見に来ることになり、警察官の振りをして過ごさなければならなくなる。その中でまたも事件の現場に居合わせ、悪漢たちを打ちのめすことになる。

 ヴィシュワースが打ちのめした悪漢たちは、ローカル・マフィア、グンダッパ・ダース(サウラブ・シュクラー)の手下だった。謎の警察官に手下が次々にやられて憤ったグンダッパは、日頃から賄賂を渡して手なずけている警官ゴールパレー(ザーキル・フサイン)を呼び出して問い質すが、ゴードパレーには当然のことながら一体誰がそんなことをしているのか分からなかった。グンダッパが焦っていたのは、ちょうどそのとき、大ボスの国際マフィア、ナポレオンがムンバイーに上陸し、ホワイト・エレファント作戦なるものを実行しようとしていたからだった。警察もその情報を察知し、警視総監カレー(ダルシャン・ジャリーワーラー)はナポレオン逮捕を目指して躍起になっていた。

 母親の前で俳優と警官の二重生活を送っていたヴィシュワースだったが、とうとう真実がばれてしまう。母親は失望のあまり気を失い倒れてしまう。その手術のためには100万ルピーが必要だった。そこへゴードパレーが急襲し、警官を詐称した容疑でヴィシュワースを逮捕する。ところが彼は警察署ではなく、グンダッパのアジトへ連れて行かれた。そこでグンダッパは、100万ルピーと引き替えに自分たちに協力するように言う。他に方法がなかったヴィシュワースは仕方なくそれを受け容れる。

 ヴィシュワースはグンダッパの指示通り、ナポレオンから密かに送られたCDを受け取る。しかし、そこでカレー警視総監率いる警察の急襲を受ける。逃亡には成功するものの、警察官2人を殺してしまう。また、母親の手術が必要というのは嘘で、医者がグルになっていたことも分かる。母親は人質に取られており、今後もマフィアのために働くことを余儀なくされた。

 ところで、CDには、ナポレオンからの次なる指示が入っていた。ナポレオンは1,000kgのコカインを密輸しており、既にムンバイーにそのコンテナが届いていた。そのCDが鍵となっており、それを運び出すことが次のミッションだった。ヴィシュワースはそのミッションに加わるが、またもカレー警視総監による急襲を受ける。ところがヴィシュワースは逆にカレー警視総監を人質に取り、アジトに戻って来る。

 遂にナポレオン(ムケーシュ・ティワーリー)がムンバイーに上陸した。彼は、マフィアの中に裏切り者がいることに勘付き、ヴィシュワースを疑う。実はヴィシュワースは、CD受け取りの仕事を請け負う前にカレー警視総監と相談しており、警察の内偵としてマフィアに潜り込む任務を与えられていた。よって、ヴィシュワースが警察に情報を流していたのだが、彼は何とか言い逃れる。ところが、助けに入っていたカージャルたちや母親が口を滑らせたりしたせいでヴィシュワースの正体がばれてしまう。絶体絶命のピンチに陥るが、カレー警視総監から与えられていた目くらましの秘密兵器のおかげで逃亡に成功する。

 実はホワイト・エレファント作戦とはコカインの密輸入ではなかった。ナポレオンはムンバイーの各地に生物化学爆弾を仕掛けており、それによってムンバイーを死の街にすることを画策していたのだった。ただ、起爆のための信管となっているケースをヴィシュワースは逃亡するときに盗み出していた。ナポレオンは、サーヴィトリーとカージャルを誘拐し、ヴィシュワースを呼び出す。ヴィシュワースは一旦ケースを警察に届けるが、カレー警視総監はケースに発信器を付けて返す。それを持ってヴィシュワースはナポレオンの待つ隠れ家へと向かい、ケースを返す。遂に信管がセットされ、20分後に爆発することになった。

 ところがそこで、ナポレオンはヴィシュワースの父親ヤシュワント・ラーオであることが分かる。ヤシュワントは悪徳警官で村人たちから憎まれ、逃亡中に事故死したことになっていたが、実は生き延び、国際マフィアとなっていたのだった。しかしヴィシュワースは感情に流されず、爆弾を解除する。そこへ警察も到着し、戦いが繰り広げられる。悪者は一網打尽となり、ヴィシュワースは表彰され、晴れて警察官となる。

解説

 非常にチープな作りの映画である。チープな笑い、チープな悪役、チープなアクション、そしてチープな演技。この種の映画はヒンディー語映画からなかなかなくならない。このような映画を求める層がいるから作っているのだと思うが、娯楽映画とレッテルを貼って欠点に目をつむるのはよくないかもしれない。娯楽映画がチープとイコールで結ばれてはいけないからだ。娯楽映画には娯楽映画の哲学があり、それに則って真剣に作れば、素晴らしいものが出来ることをインド映画界がずっと実証して来ている。残念ながら「Phata Poster Nikhla Hero」はそのレベルに達していなかった。

 いくつか失敗の要因はあると思うが、僕が一番気になったのは、ヒットのフォーミラを安易にごちゃ混ぜにしていることだ。いくら高級食材や旬の食材を使おうとも、それらをごちゃ混ぜにして調理したら、まともな料理ができないのと同じで、映画もヒットの要素を無作為に詰め込めばヒットするという訳でもない。死んだと思っていた父親との再会、警察官になったと思っている母親の前で警察官になった振り、マフィア組織の内偵、どれも過去のヒット映画にあった筋書きだが、それらが半ばパロディーのような形でストーリーに組み込まれている。テレビのコント劇の延長線上にあるような映画で、このような作りに徹しているのでは映画としての威厳が出て来ない。

 おそらくこういう映画が一定の意義を持って来るのは、俳優の現在のステータスを計るリトマス試験紙としての役割だ。「Phata Poster Nikhla Hero」の主演はシャーヒド・カプール。実は彼は長年低迷が続いている。最後に脚光を浴びたのは2009年の「Kaminey」辺りで、それ以降これと言ったヒット作に恵まれていない。そういう状況になると、「Phata Poster Nikhla Hero」のような、おそらく脚本段階で失敗が予想されるような映画にも、やむなく出演することになってしまう。それとは逆に、売れている俳優の元には一級品の脚本が届くはずで、ヒット作に連続して出演しやすい状況が生まれる。2013年のディーピカー・パードゥコーンは正にそういう状況だったのだろう。

 ヒロインのイリアナ・デクルーズは、南インド映画界では一線で活躍しているが、残念ながらヒンディー語映画界ではまだ作品に恵まれていない。「Barfi!」は完全にプリヤンカー・チョープラーの映画であったし、この「Phata Poster Nikhla Hero」もヒロインが重要な役割を果たす作品ではなかった。俳優の中で最も印象に残ったのはサーヴィトリーを演じたパドミニー・コーラープレーだ。主に80年代に活躍した女優で、最近ヒンディー語映画への出演は限定的だが、観客を引き込む力のある女優だ。今後さらにスクリーンで見る機会が増えて来るかもしれない。

 最近のヒンディー語映画のキーワードとして「汚職」に注目したいが、「Phata Poster Nikhla Hero」でも一応汚職が取り沙汰されていた。反社会性力と癒着して私腹を肥やす悪徳警官ゴールパレーやヤシュワントなどが登場し、警察に対する批判めいた描写があった一方、一般的な正義感を持つ警視総監カレーや、警察官を「現実世界のヒーロー」と呼ぶヴィシュワースの存在があり、結果的には警察を賞賛する映画になっていたと感じた。

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