Revolver Rani

全に男優優位のヒンディー語映画界において、最近女優の活躍が目立って来ている。女優の活躍、と言うのは具体的には女性が主人公の映画において女優が主演を務めることだ。一昔前のヒンディー語映画界では、女優で客が呼び込めないため、そのような映画はアイデアとしてはあっても、なかなか制作まで移されず、もし制作されたとしても、映画館での公開まで漕ぎ着くのに苦労するのが常であった。その傾向が徐々に変わりつつある。散発的にそのような映画に出演し、成功を収める女優は過去にいたが、安定して映画をヒットまで持ち込める力量のある女優となると、その先駆けは何と言ってもヴィディヤー・バーランだ。「The Dirty Picture」(2011年)や「Kahaani」(2012年)など、彼女の肩に全てが掛かった映画に果敢に挑戦し、期待以上の結果を残して続けている。

 そのヴィディヤーに続き、女性中心の映画を成功に導く力を付けて来たのがカンガナー・ラーナーウトだ。演技力には定評があり、デビュー作の「Gangster」(2006年)や「Tanu Weds Manu」(2011年)など、彼女の名演技が見られる映画は数多いのだが、何と言っても「Queen」(2014年)の演技が突出している。「Queen」は、彼女以外のスターは不在の映画であり、彼女の実力がモロに試された作品だった。その作品を興行的に成功させ、批評家からも高い評価を勝ち取ったのである。一説によると「Queen」の大ヒットにより彼女のギャラは3倍に跳ね上がったと聞く。今、最も脂の乗った女優である。

 2014年4月25日に公開された「Revolver Rani」は、「Queen」の興奮冷めやらぬ時期に駄目押しのように投入されたカンガナー映画である。どこにでもいる何の変哲もない女性を演じた「Queen」とは打って変わって政治家兼ギャングのボスを熱演しており、やはり彼女以外には大したスターのいない作品である。ただ、残念ながら興行的には失敗に終わっており、ヴィディヤーのようにヒットを連発できなかった。それでも、彼女の芸幅の広さを証明する意義はあったのではなかろうか。

Revolver Rani

 

 監督はサーイー・カビール。2013年に「Chemistry」という映画を監督しているが、詳細は不明である。実質的にはこの「Revolver Rani」でデビューした監督と言っていいだろう。音楽はサンジーヴ・シュリーワースタヴ。カンガナーの他に、ヴィール・ダース、ピーユーシュ・ミシュラー、ザーキル・フサイン、サイイド・ズィーシャーン・カードリー、プリーティ・スード、ダイアナ・ウッパールなどが出演している。

あらすじ

 アルカー・スィン(カンガナー・ラーナーウト)は、マディヤ・プラデーシュ州の地方政党の党首で、チャンバル地方を恐怖で支配する盗賊の女頭領でもあった。5年間、州議会議員を務めて来たが、最近行われた州議会選挙で、ライバルの全国政党の政治家ウダイ・バーン・スィン(ザーキル・フサイン)に敗れ、野に下っていた。アルカー・スィンは、ウダイ・バーン・スィンの兄シャンカルの仇でもあった。ウダイ・バーン・スィンの弟たちは早速アルカーに復讐しようとするが、村落開発大臣に就任したウダイ・バーン・スィンは政治家としての地盤固めを優先し、仇討ちを制止した。そこで弟たちは、ムンバイーで映画スターを目指しているローハン・カプール(ヴィール・ダース)を誘拐して来る。ローハンは2年前からアルカーの寵愛を受けていた男で、彼を使ってアルカーの弱みを突こうとしたのだった。ところがローハンはアルカーに救出される。

 ローハンにとって、アルカーは映画界で成功するための踏み台と資金源に過ぎなかった。ムンバイーでローハンはちゃっかりニシャー(ダイアナ・ウッパール)という恋人を作っており、アルカーの元に強制的に連れ戻されたのは誤算だった。彼は何とかムンバイーに帰ろうとするが、アルカーは誘拐事件のこともあり、ローハンを手放そうとしない。また、アルカーの叔父で参謀のバッリー(ピーユーシュ・ミシュラー)は、ローハンが戻って来たことでアルカーが骨抜きになってしまい、面白く思っていなかった。

 ウダイ・バーン・スィンは選挙に勝利したことを祝う集会を開いた。そこへアルカーが乱入し、檀上の人々に乱射した。この事件によってアルカーは逮捕される。アルカーの留守中にローハンは抜け出してニシャーと密会するが、牢屋を抜け出して帰って来ていたアルカーに見つかり、倉庫に監禁される。その後アルカーは政治的配慮によって釈放され、ローハンも倉庫から出してもらえる。

 また、アルカーはかねてより、ウダイ・バーン・スィンが企業から収賄をして有権者に金をばらまいて選挙に勝ったと告発していた。工場建設のため、多数のアーディワースィー(原住民)が住む土地を奪われたこともアルカーは主張していた。メディアによるスティング・オペレーション(潜入捜査)があり、ウダイ・バーン・スィンの収賄が明らかになった。ウダイ・バーン・スィンは大臣と議員を辞職せざるを得なくなり、補選が行われることになった。今回はアルカーの勝利が濃厚視されていた。ところが、このときアルカーの妊娠が発覚する。アルカーは、死亡した夫との間に子供がなく、自分自身も不妊だと考えていたのだが、そうではなかった。アルカーの心に急に変化が起こり、政治家ではなく、ローハンと結婚し、母親として生きることを決意する。これがバッリーをさらに焦らせる。早くムンバイーに帰りたいローハンにとっても一大事であった。

 周囲の反対を振り切ってアルカーは結婚の準備を始め、タージ・マハルの対岸で結婚式を挙げる。メディアに嗅ぎつけられ、アルカーとローハンの関係を問われると、バッリーは、ローハンと結婚したのは別の女だとはぐらかす。そしてアルカーを睡眠薬で眠らせると、ローハンを別の女と結婚させ、記者会見をさせる。その女がイスラーム教徒であったことから論争が起こり、ローハンはイスラーム教徒に改宗しなければならなくなってしまう。ローハンにとってはとんだ災難であった。

 アルカーは、全てを捨ててローハンとイタリアへ逃げようとする。ローハンは、両親のためと嘘をついてアルカーに大金を用意させ、隙を見てとんずらしようとする。ところが、アルカーの度重なる身勝手な行動に愛想を尽かしたバッリーは裏でウダイ・バーン・スィンと手を組んでおり、アルカー暗殺の手引きをしていた。ムンバイーへ向かって逃げ出したアルカーとローハンだったが、深夜、ローハンが金を持って逃げると、そこへ刺客による襲撃があり、アルカーは孤軍奮闘の中、炎の中に消える。ローハンはその状況を隠れて見ていた。しかし、全てが収まった後、アルカーはローハンの前に姿を現す。ローハンは彼女に2発の銃弾を浴びせ、殺す。

 アルカーの死は、真相を隠す形で公表され、バッリーやウダイ・バーン・スィンは揃って追悼の言葉を述べる。ところがマディヤ・プラデーシュ州の森林の中で、アーディワースィーによって治療される焼けただれた女性の姿があった。アーディワースィーが彼女の手にリボルバーを握らすと、その目は大きく見開いた。そう、まだアルカーは生きていた。

解説

 基本的にはギャング映画&地方政治映画の女版と言ったところだが、恋愛という要素が入っていたために、ツイストもあった。ただ、それが成功しているかと言うと疑問で、それが興行成績にも表れたのだと思われる。「Queen」でカンガナーが演じたラーニー役に比べると、「リボルバー・ラーニー」ことアルカー役は魅力がなかった。

 それでも、いくつか特筆すべき点もあった。まず、アルカーのキャラについてだが、チャンバル地方の女盗賊ということで、実在の女盗賊で国会議員にまで上り詰めたプーラン・スィンが容易にモデルとして想起される。ただ、映画の開始時にはアルカーは州議会議員を5年間務めた後に選挙で負けて野に下っており、女盗賊としての台頭や周囲の差別や虐待との闘争を描いた作品ではない。「リボルバー・ラーニー」の異名通り、愛用するリボルバーをすぐにぶっ放す切れやすい性格だが、それが何かの味わいになっているという訳ではなかった。

 舞台はマディヤ・プラデーシュ州北部の中心都市グワーリヤル周辺部で、州議会議員の議席を巡って繰り広げられるギャング・ウォーさながらの政争が背景となっていた。アルカーの宿敵ウダイ・バーン・スィンは、同地方に工場建設を希望する企業から多額の賄賂を受け取り、森林に住むアーディワースィー(原住民)を追い出して工場用地を接収する悪徳政治家であった。これはインド各地で実際に起こっていることであり、開発・発展が社会的弱者の犠牲の上に成り立っていることが暗に示されていた。最後、瀕死の重傷を負ったアルカーを助けたのがアーディワースィーだったという点も、この辺のメッセージをより明確にしていた。しかし当然のことながら、この部分が中心的なテーマの映画ではなかった。

 最近のヒンディー語映画の中心テーマに「汚職」がある。これはアンナー・ハザーレーによる汚職撲滅運動と、アルヴィンド・ケージュリーワールが立ち上げた庶民党(AAP)の躍進が影響している。「Revolver Rani」にも、ウダイ・バーン・スィンという汚職政治家が登場し、彼の汚職がスティング・オペレーションによって暴露されるという下りがあり、流行りのトレンドに乗った味付けがなされていたと言える。

 一見、単なる娯楽映画に見えた「Revolver Rani」であったが、最も強烈に印象に残ったのは、アルカーに押された「バーンジュ」としての烙印と、それを解消しようとする彼女の闘争であった。「バーンジュ」とは「不妊」という意味であり、日本語では「石女」がその訳としては適切であろう。男顔負けの度胸を持つアルカーであったが、先の夫との間に子供ができなかったことから、周囲の人々によって「バーンジュ」の烙印を押されていた。おそらくそれがアルカーをさらにエキセントリックにさせたのだろう。だが、ローハンとの情事によって妊娠し、自分は「バーンジュ」ではないことが分かると、それを世間に広めようとすると同時に、政界を去って主婦・母親になることを夢見る。非常に一方的な人物描写であったが、夫婦の間で子供ができないとまず女性が不妊の原因とされ、社会から二等市民の扱いを受けるインドの社会の問題を少しだけ取り上げていたように感じた。

 ロケ地は実際にマディヤ・プラデーシュ州北部、いわゆるブンデールカンドと呼ばれる地域で撮影されていた。グワーリヤル城でのロケがいくつか見られたし、シヴプリー鳥獣保護区域でも撮影されたようだ。ブンデールカンドには魅力的な城塞や邸宅が数多く残っており、ロケ地としてのポテンシャルは高い。「Revolver Rani」でもブンデールカンドの建築が存分に活かされていたと言えよう。

 それと関連して、台詞の多くもブンデールカンド地方の方言であるブンデーリーであった。よって、標準ヒンディー語だけの語学力では聴き取りが困難である。「何か」という意味の「クチュ」が「カチュー」になったり、動詞未来形の語尾「ガー」が「ゴー」になったりする。言葉の使い方は非常に写実的で、地方色がよく出ていた。

 「Revolver Rani」は、勢いに乗る女優カンガナー・ラーナーウトの主演作である。興業的に失敗しているし、作品自体も粗が目立つのだが、「Queen」によって女優としての円熟期を迎えたカンガナーの、「Queen」とは正反対の顔が見られる映画として楽しめる。終わり方から察するに、続編もあるかもしれない。

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