Tanhaji

2015年から17年に掛けて、テルグ語映画「Bahubali」シリーズがインド全土を席巻したことにより、ヒンディー語映画界でも「Bahubali」スケールの叙事詩的映画が製作されるようになった。「Padmaavat」(2018年)、「Thugs of Hindostan」(2018年)、「Manikarnika: The Queen of Jhansi」(2019年)、「Panipat」(2019年)などである。2020年1月10日公開の「Tanhaji」も、1670年2月4日のスィンハガルの戦いを描いたエピック映画である。2020年のヒンディー語映画でもっともヒットした映画となった。




 監督はオーム・ラウト。それまであまり知られていなかった監督である。主演はアジャイ・デーヴガン。悪役としてサイフ・アリー・カーンがキャスティングされている他、デーヴガンの妻カージョル、ネーハー・シャルマーなどが出演している。

 17世紀半ば、北インドではムガル朝第6代アウラングゼーブが皇位に就いており、インド全土に支配を拡大しようとしていた。デカン地方ではマラーター王国のシヴァージーがアウラングゼーブに対抗していたが、膠着状態に陥り、講話を結ぶ。だが、シヴァージーは多くの城をムガル朝に割譲することとなった。コーンダーナー城(現在のスィンハガル)も、元々シヴァージーのものであったが、講話によりムガル朝に割譲された城のひとつだった。断崖絶壁の上にそびえ立つ城で、難攻不落で知られていた。

 アウラングゼーブは、コーンダーナー城の城主としてウダイバーン・スィン・ラートール(サイフ・アリー・カーン)を派遣する。ウダイバーンはヒンドゥー教徒ラージプートであったが、残虐な性格で、アウラングゼーブの寵愛を受けていた。シヴァージーのもっとも頼りになる将軍ターナージー(アジャイ・デーヴガン)は、途中でウダイバーンを待ち伏せするが、裏切り者の密告によって奇襲は失敗に終わる。

 ターナージーは部下を返し、単身コーンダーナー城に忍び込む。ウダイバーンに捕らえられ拷問を受けるが、彼は秘密の抜け道の存在を確認し、脱出する。ターナージーは自分の手下を率いて新月の夜にコーンダーナー城を攻撃する。このような物語である。

 スィンハガルはプネー近郊に現存する城塞で、マハーラーシュトラ州中部の観光地のひとつとなっている。スィンハガルを訪れる者は、1670年にムガル朝の城主ウダイバーンとマラーター王国のターナージーの間で戦われたスィンハガルの戦いを聞かずにはいられない。ターナージーは、断崖絶壁をトカゲを使ってよじ登り、城塞に攻撃を仕掛けて見事勝利する。だが、この戦いでターナージー自身は命を落とす。この功績により、ターナージーはマラーターの英雄の1人に数えられている。

 だが、トカゲを使って断崖絶壁をよじ登るというのが、どうにも想像できない。どうやらトカゲにロープを加えさせて崖をよじ登らせ、崖の上で結ばせて、そのロープを使って兵士たちが崖を登るという戦略のようだが、普通の知能を持っている人だったら、そんなことできるのかと思ってしまう。さすがに映像化が難しかったのか、「Tanhaji」では、崖を登るシーンはあったものの、トカゲは登場しなかった。

 2014年にモーディー政権が発足して以来、ヒンディー語映画界ではヒンドゥー教徒の英雄がイスラーム教徒の敵に打ち勝ったり立ち向かったりする映画が多数作られるようになった。現代を舞台にした映画もいくつかあるのだが、インドにイスラーム政権が樹立した中世以降の歴史的出来事を取り上げることが多く、「Bajirao Mastani」(2015年)、「Padmaavat」、「Manikarnika」、「Panipat」などが例として挙げられる。「Tanhaji」もヒンドゥー教徒の英雄を主人公とし、イスラーム教の政権であるムガル朝と敵対しているが、ターナージーが直接戦うのはヒンドゥー教の城主ウダイバーンである。よって、イスラーム教を敵視する要素は薄い。むしろ、マラーター主義を鼓舞する映画となっている。ヒンディー語に加えてマラーティー語吹替版も作られた。現在、マハーラーシュトラ州政府はマラーター主義を掲げるシヴ・セーナーが与党となっているが、政権樹立と映画の製作期間を考えると、これらをリンクさせるのは邪推と言えそうだ。

 主演のアジャイ・デーヴガンは、「Singham」(2011年)などで見せて定評のある絶対的なスーパーヒーロー像をマラーター王国の一戦士として再現していた。デーヴガンの実際の妻カージョルが、ターナージーの妻を演じていたのは、ファン・サービスとも言えるだろうし、ファミリービジネスとして映画作りに取り組むインド映画界では当然のこととも言える。ただ、2人の共演は「U Me aur Hum」(2008年)以来で、久しぶりである。カージョルの出演機会は少なかったが、強い印象を残す演技をしていた。

 一方の悪役はサイフ・アリー・カーンが演じていた。彼が悪役を演じるのも珍しいし、アジャイ・デーヴガンとの共演も珍しく感じる。おそらく「Padmaavat」のランヴィール・スィンをイメージした狂気の悪役を演じていたが、ランヴィールの演技が壮絶すぎて、今回のサイフの演技は二番煎じに感じてしまった。

 「Tanhaji」は、1670年のスィンハガルの戦いを映画化したエピック映画である。「Bahubali」のスケールには及ばないものの、中世を舞台にし、無敵の活躍をするスーパーヒーローをアジャイ・デーヴガンが堂々と演じ、まとまりのいい娯楽映画となっている。コロナ禍に見舞われた2020年のナンバー1ヒット作である。是非とも抑えておきたい作品だ。

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