The Shaukeens

年、現地でインド映画を見てきて、「インド映画の真髄はコメディー映画である」と喝破した。インドでは未だに映画は娯楽の王様であり、娯楽の王道はコメディーである。インド映画の存在意義はまず第一にコメディーにあり、インド映画が人々から愛されているのも、コメディーに力があるからである。辛いことの多いインド生活だが、コメディー映画を観ることで、しばしそれを忘れることができるのは、外国人でも同じだった。最近、TVでも人気のコメディー番組がいくつも出現しており、コメディーは映画の専売特許ではなくなっているものの、映画からコメディーがなくなることはしばらくなさそうだ。

 ふとヒンディー語のコメディー映画が観たくなって、未見のDVD群の中から2014年11月7日公開の「The Shaukeens」を選んだ。これは、1982年にバス・チャタルジー監督が撮った映画「Shaukeen」のリメイクである。監督は、コメディー映画「Tere Bin Laden」(2010年)で衝撃のデビューをしたアビシェーク・シャルマー。音楽は、ヨー・ヨー・ハニー・スィン、アルコ・プラヴォ・ムカルジー、ハード・カウル、ヴィクラム・ネーギーの曲の寄せ集め。作詞はサーヒル・カウシャル。脚本は「Paan Singh Tomar」(2012年)などのティグマーンシュ・ドゥーリヤー。

The Shaukeens

 

 キャストは、アヌパム・ケール、アンヌー・カプール、ピーユーシュ・ミシュラー、リザ・ヘイドン、アクシャイ・クマール、ラティ・アグニホートリー、マノージ・ジョーシー、ユヴィカー・チョウドリー、サイラス・ブローチャーなど。ちなみに、インドの劇場公開版では、アビシェーク・バッチャン、カリーナー・カプール、ディンプル・カパーリヤーなどがカメオ出演していたようなのだが、DVDではそのようなシーンは見当たらなかった。

 ちなみに、題名の「shaukeen」とは、「好き者」「好事家」のような意味である。「the」はもちろん英語の定冠詞で、「shaukeens」の「s」は複数形の「s」だ。「好き者たち」とでも訳せばいいだろう。

あらすじ

 デリーに住む仲良し三人組の60代男性、ラーリー(アヌパム・ケール)、KD(アンヌー・カプール)、そしてピンキー(ピーユーシュ・ミシュラー)は、年甲斐なく性欲を持てあましていた。デリーで何か行動を起こすのにはリスクがあったため、3人はモーリシャスに行くことにする。そこで1週間だけ民家を借りることにしたのだが、その家の主が、若く奇天烈な女性デザイナーのアハーナー(リザ・ヘイドン)であった。

 3人はアハーナーの艶めかしい肢体に釘付けになり、何とか彼女といい仲になろうとする。アハーナーは彼氏と別れたばかりで、精神的に不安定であった。また、極度のフェイスブック狂であった。ちょうどこの頃、映画スターのアクシャイ・クマール(本人)がロケのためにモーリシャスを訪れていたのだが、アハーナーはアクシャイの大ファンだった。アクシャイに会わせてくれたら、その人のために何でもすると言っているのを聞き、3人は何としてでも彼女をアクシャイに会わせようとする。

 まず動いたのはラーリーだった。彼はロケ現場まで出向いて行き、アクシャイの取り巻きと金銭のやり取りをして、アクシャイとの面会を取り付ける。ラーリーに呼ばれたアハーナーは、アクシャイと話し、セルフィーを撮って、ご満悦だった。ラーリーはアハーナーから額にキスをもらっただけだったが、他の2人の前では大袈裟に言いふらす。

 次に動いたのはKDであった。アクシャイがデリーの下町チャーンドニー・チョウク育ちであることを利用し、親戚や友人の筋からアクシャイとコンタクトを取ろうとするがうまく行かなかった。そこで「アクシャイの叔父」ということで無理矢理セキュリティーをかいくぐり、アハーナーをアクシャイに引き合わせる。アハーナーは今度はKDにベッタリとなる。

 一人取り残されたピンキーは焦る。彼は香辛料業者であり、モーリシャスに代理店を持っていた。その代理店がアクシャイを主賓にイベントを主催すると聞いたピンキーは、強制的に自分を第二の主賓にさせる。そしてアハーナーと共に壇上に上がる。しかし、アハーナーをストーカーと認識していたアクシャイは怒りを爆発させ、メディアの前で怒鳴り散らす。そればかりでなく、「オレは飲んだくれだ」宣言までする。このニュースはインドでも報道され、ラーリー、KD、ピンキーの顔も映ってしまった。アクシャイから罵声を浴びたアハーナーはショックを受け、3人を家から追い出す。

 大事になったことに心を痛めたアクシャイは、3人を連れてアハーナーに謝りに行く。何とか名誉を回復するため、そのときの出来事は全て次作のプロモーションということにする。記者会見を開いたアクシャイは、ラーリー、KD、ピンキーを敬意を持って紹介し、アハーナーを次作のヒロインに抜擢する。こうして何とか事態は収拾する。

解説

 ストーリーは非常に単純で、3人の老人が1人の若い女性の気を引こうとあれこれ情けない姿をさらすのを笑う、ちょっと下品なコメディーだ。日本人向けに一言で紹介するならば、「インド版かぐや姫」がピッタリだ。リザ・ヘイドン演じるアハーナーを奪い合う主演の3人、アヌパム・ケール、アンヌー・カプール、ピーユーシュ・ミシュラーは、それぞれ一流の演技力を持つ男優であり、彼らが「本気で」情けない老人の役を演じているところに、この映画の笑いの壺の大部分がある。その部分では非常に成功していたと言える。

 ただ、細かい部分を見て行くと、それなりによく練られた構成になっていることが分かる。例えば、アクシャイ・クマールのキャラ作り。この映画では、アクシャイ・クマールがアクシャイ・クマール自身として出演している。このような映画はそれほど珍しくない。「Om Shanti Om」(2007年)では多数の映画俳優たちが自分自身の役でカメオ出演していたし、「Nanhe Jaisalmer」(2007年)ではサニー・デオルが、やはりサニー・デオル役として、主人公の憧れの対象となっていた。しかし、単にアクシャイ・クマールのパブリック・イメージを踏襲するだけでなく、敢えて反対のイメージを発信してみたり、デフォルメしてみたりしているところが、「The Shaukeens」の面白いところであった。アクシャイ・クマールの本名がラージーヴ・バーティヤーであること、チャーンドニー・チョウク育ちであることなどは、ファンならば常識であろうが、彼が「シャラービー(飲んだくれ)」だと宣言するシーンなどは、酒を全く飲まないと言われている彼のパブリック・イメージを逆手に取ったギャグであった。娯楽映画路線はもうやめて、今後は国家映画賞などの賞を狙う、とアクシャイに語らせているところも、一流のジョークであろう。

 主人公である3人の老人の立ち位置も、現在のデリーを象徴していて面白かった。ピンキーはオールド・デリーのチャーウリー・バーザールで香辛料店を営んでいる。彼の香辛料は海外に輸出するほど有名であるが、彼自身は英語がしゃべれず、それがコンプレックスになっている。ピンキーのキャラは、古いデリーの象徴だ。一方、ラーリーはコンノート・プレイスに靴屋を持っている。英語も堪能で、商店街組合の会長も務めており、周囲から尊敬を集めている。だが、3人の中ではもっとも外分を気にする性格であり、しかも普段偉そうなことを言っておきながら、一番ずるい人物でもある。彼は新しいデリーの象徴だ。さらに、KDは一人だけ独身で、寡婦のためのNGOを運営している。デリー郊外にファームハウスを持っており、悠々自適の生活を送っている。彼は、最新のデリーを象徴している。この3人は、デリーが内包する3つのデリーを体現しているのである。

 3人が最初に羽を伸ばしに行こうとしていたのはタイのバンコクであった。いつからであろうか、バンコクはインド人が大好きな旅行先となっている。インドからもっとも近い外国のひとつである上に、インドで高額な電化製品などが安く手に入ったり、ヴァカンスに最適なビーチなどが多いということで人気だ。それに加えて性産業が盛んで、それを求めて行くインド人男性も急増している。そこまでは知っていたが、バンコクに行くことが醜聞になるほど、イメージが悪くなっているのは初耳だった。3人がバンコク行きを諦めたのは、家族の猛烈な反対があったからだ。曰く、一家の主がバンコクなどに行ったと近所に知れ渡ったら笑い物になる、と言うのである。

 代わりに目的地として選ばれたモーリシャスは、これまたインドと深い関係のある国である。モーリシャスはかつて英国の植民地であり、サトウキビや茶の栽培が盛んだった。それらのプランテーションで働く契約労働者としてインドの貧困地域の人々が連れて行かれ、多くがそこに定住した。そういう歴史から、モーリシャスの人口の約7割がインド系となっている。よって、ヒンディー語を話せる現地人がいるのは全く不思議ではない。

 「The Shaukeens」は、しょうもないストーリーではあるが、アヌパム・ケール、アンヌー・カプール、ピーユーシュ・ミシュラーや、アクシャイ・クマールの徹底的なお馬鹿演技のおかげで、気軽に笑うことのできるコメディー映画に仕上がっている。ただ、「Tere Bin Laden」のような、時勢を反映するような傑作コメディー映画を作ったアビシェーク・シャルマー監督には、もっと上を目指して欲しかったという気持ちもあったのが正直なところだ。つまらない映画ではないが、そこに暇つぶし以上の価値を求めるのは難しい。

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