The Sky Is Pink

感動的映画を作るための手軽な黄金の公式として、余命幾ばくない人物、もしくは難病を患った人物を主人公にする手法がある。ヒンディー語映画界でも昔から散々使い古されてきたフォーミラであり、21世紀に入ってからも、「Kal Ho Naa Ho」(2003年)、「Black」(2005年)、「Tare Zameen Par」(2007年)、「Ghajini」(2008年)、「My Name Is Khan」(2010年)、「Margarita with a Straw」(2014年)など、多くの映画が作られてきた。その多くは名作として記憶されている。

 インドで2019年10月11日に公開されたヒンディー語映画「The Sky Is Pink」は、重症複合免疫不全症 (SCID)という難病を患った少女を主人公にした、実話に基づいた映画である。監督はショーナーリー・ボース。前作「Margarita with a Straw」では、脳性麻痺(CP)を題材とし、各国の映画賞を受賞した経歴を持っている。主演はプリヤンカー・チョープラー、ファルハーン・アクタル、そして「Dangal」(2017年)や「Secret Superstar」(2018年)のザーイラー・ワースィム。Netflixで鑑賞した。



 「The Sky Is Pink」は、1996年にSCIDを患って生まれ、2015年に死去した、アーイシャー・チョウドリーという少女の短い人生を描いた伝記映画である。映画では彼女が実名で登場し、ザーイラー・ワースィムが演じている。SCIDとは、遺伝子の異常から引き起こされる免疫疾患で、免疫が獲得できないため、乳幼児の頃から頻繁に感染を繰り返し、適切に治療されないと早期に死去する。映画によると、アーイシャーの両親、ニレーン(ファルハーン・アクタル)とアディティ(プリヤンカー・チョープラー)の遺伝子の組み合わせがたまたまこの病気を引き起こすという。実はアーイシャーにはターニヤーという姉がいたのだが、同じ病気を患っており、乳幼児期に死亡した。また、イシャーンという兄もいたが、彼はこの症状を発症していなかった。

 前述の通り、難病を患った主人公の映画は稀ではないのだが、その中でもこの映画ではユニークな手法が取られていた。映画のナレーションを患者本人であるアーイシャーがしていたのである。アーイシャーは2015年に死亡しており、この物語を語っているときは既に死んでいるという設定で、冒頭でも自分でそれを語っている。つまり、死人が自伝を語るスタイルとなっている。だが、そのおかげで、このような映画にありがちな重苦しい雰囲気やいかにもなお涙頂戴のシーンは少なく、終始非常にあっけらかんとしていた。これはショーナーリー・ボース監督の持ち味だと言えるだろう。

 アーイシャーが生まれたとき、ターニヤーの死の教訓から、両親はいち早く彼女をロンドンに連れて行き、世界最先端の治療を受けさせた。その際、手術代は英国在住の南アジア人コミュニティーから寄付を募った。その後、アーイシャーは10年以上、ロンドンに滞在し、ようやくSCIDを克服した。その後、アーイシャーと家族はインドに戻って来る。アーイシャーはしばらくインドでの学生生活をエンジョイするが、あるとき肺線維症を発症する。SCIDの薬剤治療の副作用であった。アーイシャーの病状は次第に悪化する。肺の移植をすれば余命が10年延びる可能性があったが、アーイシャーはそれを拒否する。アーイシャーは絵を描く趣味があり、両親はアーイシャーの死までに彼女の画集を出版しようと奔走する。その本は彼女の死の1日前に出版された。

 アーイシャーは、重病を患っているにも関わらず、非常に陽気で楽観的な性格で、それが家族の支えとなっていた。彼女がもし内側に塞ぎ込むタイプの人間であったら、この映画は彼女の内面にフォーカスしたものになっていたことだろう。だが、彼女は死に対しても悟りに近い考えを持っており、彼女からダークでネガティブなオーラは発せられていなかった。むしろアーイシャーの方が家族の世話を焼いているような語り口調であった。そのおかげでこの映画は、アーイシャーを支える家族の内面や、アーイシャーとの関係性にフォーカスしたものになっていた。

 アディティとアーイシャーの関係は、通常の母と娘の関係を越えたものとなっていた。アディティは娘に、死ぬまでに人生を謳歌してもらいたいと考えており、自らボーイフレンドを作らせようとするなど、大きな世話も焼いていた。ニレーンにとってもアーイシャーは誰よりも大切な存在だった。ロンドンでアーイシャーの治療のためのドナーとなったのはニレーンであったし、ロンドンで治療を受け続けなければならないアーイシャーのために、デリーからロンドンに転勤し、必死で仕事をして財を成してきたのも彼だった。時にニレーンとアディティはアーイシャーを巡ってぶつかり合いもした。兄のイシャーンにとって、アーイシャーは妹であると同時に、両親の愛を競い合うライバルでもあった。アーイシャー中心の家庭生活に嫌気が指し、彼は単身ロンドンへ留学してしまったこともあった。だが、結局イシャーンにとってもアーイシャーのことを考えない日はなく、彼女のためにロンドンから呼び戻されると素直にインドに戻ってきた。

 題名の「The Sky Is Pink」とは、「空はピンク色」ということだが、これはイシャーンが幼稚園でお絵かきのときに、ピンク色に空を塗ったら先生から怒られて沈んでいたところ、アディティがその独創性を認め、多様性を重視する考えを彼に吹き込んで慰めたことに由来する。物語の中心人物であるアーイシャーではなく、脇役ともいえるイシャーンの言動が映画の題名となるのは面白いが、当然、このピンク色には、アーイシャーというユニークな存在が含意されていると見ていいだろう。

 ファルハーン・アクタルとプリヤンカー・チョープラーは既に確立された俳優であり、安定の演技を見せていた。対してザーイラー・ワスィームはまだ10代の女優であるが、既に大物女優の風格を匂わせている。今や国際的に活躍する女優となったプリヤンカー・チョープラーの前でも全く引けを取っていない。イシャーンを演じたローヒト・スレーシュ・サラーフはこの3人に比べると存在感が薄かったが、悪い演技ではなかった。

 「The Sky Is Pink」は、「Margarita with a Straw」のショーナーリー・ボース監督の最新作。前作に引き続き難病を患った主人公の映画だが、全く暗い雰囲気のない映画であり、鑑賞後には心が軽くなる明るい映画である。絶賛を送りたい。

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