Torbaaz

クリケットはインドで一番人気のスポーツであり、スポーツ映画の題材としてもNo.1だ。「Lagaan」(2001年)をはじめとして、「Iqbal」(2005年)、「Dil Bole Hadippa!」(2009年)、「Ferrari Ki Sawaari」(2012年)、「M.S. Dhoni The Untold Story」(2016年)など、多数の、しかも多様なクリケット映画が作られて来た。

 2020年12月11日からNetflixで配信されたヒンディー語映画「Torbaaz」も、クリケット映画のひとつである。そのアプローチの仕方はユニークで、アフガニスタンの難民クリケットチームをインド人医師が育て上げるという物語だ。インドとアフガニスタンは友好国であり、インドはアフガニスタンの発展に多大な寄与をしている。



 アフガニスタンのクリケットの歴史は新しく、クリケット協会が設立されたのは1990年代である。パキスタンに逃れた難民たちがクリケットを覚え、彼らの帰国後に普及して行ったらしい。その後、急速に人気を集め、国際試合にも出場するようになった。今までワールドカップには2度出場しており、2017年に国際クリケット協会の正規加盟国となった。ターリバーンもアフガニスタン代表クリケット・チームを応援しているようで、部族ごとに抗争を繰り返すアフガニスタンにおいて、クリケットの国際試合は国が一丸となれる希有な行事となっているようである。

 「Torbaaz」の監督は「Jal」(2013年)のギリーシュ・マリク。サンジャイ・ダットが主演を務め、ナルギス・ファクリーやラーフル・デーヴが出演している。題名の「Torbaaz」とは「ハヤブサ」の意である。

 2018年、アフガニスタンの首都カーブルに、元軍医のナスィール(サンジャイ・ダット)が降り立つ。彼はかつてカーブルに赴任しており、爆弾テロ事件で妻子を亡くしていた。ナスィールは、難民キャンプでNGOを主宰するアーイシャー(ナルギス・ファクリー)と共に、難民の子どもたちにクリケットを教え始める。だが、ターリバーンの首領カザール(ラーフル・デーヴ)は、難民の子どもを自爆テロ要員として育て、米軍、NATO軍、アフガニスタン軍に損害を与えようと画策していた。

 まずはその光景に驚かされる。インド映画でアフガニスタンを舞台として登場させようとした際、インド国内のラダック地方でロケを行うことがある。「Kabul Express」(2006年)という、本当にアフガニスタンでロケが行われた映画があったが、未だ治安の安定しない当地でのロケは困難だ。一見して、この映画の光景はラダックのものではないと分かり、もしかしたらこれもアフガニスタン・ロケの映画かと思った。だが、調べてみたら、キルギスタンで撮影されたという。それでも、アフガニスタンの雰囲気が非常によく出ており、それだけで大作のオーラがあった。

 銃撃、自爆テロ、ドローン攻撃など、血なまぐさいシーンの多い映画であり、しかも屈強なサンジャイ・ダットが主演であるため、「ランボー3 怒りのアフガン」(1988年)のような展開になるかと少し期待してしまうが、戦争映画にはならない。代わりに、難民の子どもたちを組織してクリケット・チームを作るという、驚きの展開となる。クリケットを通して、お互いにいがみ合っていた子どもたちが結束し、カーブルのクリケット学院のチームに勝利することを目標に練習を始める。この辺りも、意外性があって良かった。

 難民チームの中には、カザールから自爆テロ要員として育てられた3人の子どもが交ざっていた。その内の1人、バーズは、チームの中でも特に有望な選手であった。カザールは、クリケットにかまけている3人を呼び戻し、自爆テロ要員として訓練し直すが、ナスィールはカザールと直接交渉に臨み、試合にだけは出させてくれるように頼み込む。この辺りも、緊迫感ある展開だった。

 だが、一番肝心なクリケットの試合が弱かった。試合の運びが単調で、基本的にバウンダリー(4ランや6ラン)ばかりで得点が加算されて行く。最後の1ボールまで試合の行方が分からない展開はドラマを盛り上げるために必要だとしても、試合の締め方も狐につままれたようであった。また、試合後に起こることも、唐突すぎて付いて行けなかった。

 同じような映画として「Lagaan」が挙げられるが、「Lagaan」については、クリケットの試合シーンもじっくりと描写しており、クリケットのルールが分からない人でも飽きないレベルにまで達していた。また、チーム全員のキャラが立っていたのも「Lagaan」の美点であった。同作から約20年後に作られた「Torbaaz」は、残念ながら過去の傑作からそのようなことを学べていなかった。

 元々劇場公開を予定していた作品だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でNetflix配信となった。日本にいながらインド映画の最新作が観られる時代となったのは非常にありがたいのだが、今までNetflix配信作品の数々を観て来て感じたのは、やはり劇場公開で大ヒットが望めない出来となってしまった映画がそういう運命を辿ることが多い、ということだ。「Torbaaz」は、そういう印象をより強くする映画だった。

 「Torbaaz」は、サンジャイ・ダット演じる主人公が、アフガニスタンにおいて難民の子どもにクリケットを教え、夢と希望を持たせることで、殺戮の連鎖を断ち切ろうと奮闘する映画だ。大作めいた雰囲気があるが、監督の未熟さからまとまりきらない映画になってしまっている。残念な作品である。

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