Total Siyapaa

2010年、インド・テニス界のアイドル、サーニヤー・ミルザーが、パーキスターン人クリケット選手ショエーブ・マリクと結婚すると発表されたとき、インド中に衝撃が走ったものだった。インドとパーキスターンと言うと、過去に3度の戦争をしているほど犬猿の仲として世界に知られているものの、両国は元々ひとつの国であり、両国民は同じ文化を共有している。家族や親戚が国境をまたいで住んでいるという例も多い。よって、印パ間でのクロスボーダー結婚も珍しくない。インドに住むイスラーム教徒がパーキスターンに住むイスラーム教徒と結婚するパターンがほとんどだが、つい最近ではジャイプルのヒンドゥー教徒王族女性がパーキスターンはアマルコートのヒンドゥー教徒王族男性と結婚した例もあるし、国境をまたぐスィク教徒同士の結婚もあるはずである。

 2014年3月7日公開の「Total Siyapaa」は、インド人女性とパーキスターン人男性が恋愛結婚する物語である。題名は「全くのカオス」という意味。それが示す通り、両国の男女が結婚しようとするとどんなことが起こるのか、面白おかしく描いたコメディー映画である。スペイン映画「Only Human」(2004年)をベースとしている。

Total Siyapaa

 

 監督はイーシュヴァル・ニヴァース。「My Name Is Anthony Gonsalves」(2008年)などの監督である。脚本を「A Wednesday!」(2008年)や「Special 26」(2013年)のニーラジ・パーンデーイが書いている。劇中でパーキスターン人を演じるのは、実際にパーキスターン人俳優であるアリー・ザファル。「Tere Bin Laden」(2010年)など多数のヒンディー語映画に出演しており、既にインド人にもお馴染みの顔になっている。また、ミュージシャンでもある彼が音楽も担当している。ヒロインはヤーミー・ガウタム。「Vicky Donor」(2012年)でヒンディー語映画デビューした女優であるが、テレビ界や南インド映画界で実績がある。他に、アヌパム・ケール、キロン・ケール、サラー・カーン、ヴィシュヴァ・バドーラー、アヌジ・パンディトなど。

あらすじ

 ロンドン在住のパーキスターン人、アマン(アリー・ザファル)は、インド人女性アーシャー(ヤーミー・ガウタム)と恋愛結婚することになった。アーシャーはアマンを自宅に呼び、家族に紹介しようとする。ところが、その当日、アマンは警察にテロリストと間違われて一時拘留される。アマンは今日は不吉な日だと考え、日を改めてアーシャーの家を訪ねようとするが、彼女は強引にアマンを連れて来た。

 アーシャーの母親(キロン・ケール)は、結婚相手がイスラーム教徒ということしか聞いておらず、彼がパーキスターン人だと知って驚く。アーシャーの弟マーナヴ(アヌジ・パンディト)は階下に住むパーキスターン人を目の敵にしていたし、祖父(ヴィシュヴァ・バドーラー)は1971年の第3次印パ戦争を戦った元軍人で、やはりパーキスターン人を敵としか考えていなかった。ただ、アーシャーの姉ジヤー(サラー・カーン)はアマンの所属するバンドの大ファンで、彼を見た途端にそれに気付いた。ジヤーは夫と別居中で、娘のアンジャリと共に実家に帰って来ていた。

 アマンは、アーシャーの家族があまりにエキセントリックなのでたじたじとなる。アマンは冷凍スープの入ったコンテナを誤って窓から落としてしまい、そのコンテナが頭に当たった通行人が道路に倒れていた。アマンは、それがもしかしたらアーシャーの父ラジンダル(アヌパム・ケール)ではないかと疑う。しかし、アーシャーの母親はラジンダルがいつまでも帰って来ないことから、彼が浮気しているのではないかと考え、ジヤー、アーシャー、アマンを連れてラジンダルのオフィスへ向かう。

 オフィスにラジンダルはいなかった。だが、ラジンダルを探している間に、アマンはジヤーが自分のバンドの大ファンであることを知り、2人で音楽に合わせて踊り出す。それを見たアーシャーは腹を立てる。

 一方、やはり道端に倒れていたのはラジンダルだった。彼は救急車で病院に運ばれ、意識を取り戻すが、記憶喪失になっていた。病院を抜け出したラジンダルは売春婦に誘惑されるが、後に放り出される。何とか彼は自宅に辿り着く。

 アマンとアーシャーの仲は険悪になっていた。ラジンダルが無事に帰って来たことでアマンは責任を果たしたと考え、一人立ち去る。それをアーシャーが追い掛け、2人は仲直りする。

解説

 インド映画で印パ間の恋愛物が作られる場合、男性の方はインド人、女性の方がパーキスターン人となるパターンがほとんどだ。自国の女性が他国の男性に取られることに対する漠然とした嫌悪感が特に男性内にあり、おそらくそれがこの偏りに作用していると思われる。だが、「Total Siyapaa」では逆である。男性主人公アマンの方がパーキスターン人で、ヒロインのアーシャーの方がインド人である。2人ともロンドンに住んでおり、自然な交際が可能となった訳だが、印パの男女配置が通常と逆だった点がまず目新しかった。

 また、アマンはイスラーム教徒で、アーシャーはヒンドゥー教徒である。つまり、2人は国境のみならず宗教の壁を越えて結婚しようとしている。これはかなりレアなケースなのではないかと思われる。折りしも、ヒンドゥー教過激派の間で「ラブ・ジハード」に対する懸念が高まっている。ラブ・ジハードとは、イスラーム教徒が自コミュニティーの人口を増やして社会の中で優位に立つために、ヒンドゥー教徒の女性と意図的に結婚しているとするものである。そんな社会情勢の中で、イスラーム教徒男性がヒンドゥー教徒女性と結婚する様子を描いたこの作品は、タイミングが良かったとも言えるし、悪かったとも言える。つまり、無視はされないということだ。

 こういう形の結婚は実際にあるかどうかはさておいて、映画の中身を見て行きたい。「Total Siyapaa」は、ほとんど密室で繰り広げられるコメディー劇で、主なテーマは草の根の印パ関係である。ただ、パーキスターン人イスラーム教徒とインド人ヒンドゥー教徒が恋愛結婚しようとすると、一般にどういうことが起こるか、ということを鋭く、かつ面白おかしく綴ったような作品ではなかった。

 その障害となっていたのが、アーシャーの家族メンバーである。彼らは皆エキセントリックで、性格が極端だ。そして極端にパーキスターンを嫌っている。彼らにアマンがとことん振り回される様子は確かに面白いのだが、これが、自分の家族がパーキスターン人と結婚すると知ったときのインド人の一般の反応とは必ずしも言えないところが、この映画の弱さであった。ごく普通の家庭がどんな反応をするか、を追って行った方が、より有意義な映画になっていたことだろう。

 ちなみに、アマンとアーシャーという名前は、インドのタイムス・オブ・インディア・グループとパーキスターンのジャング・グループが共催していた平和キャンペーン「Aman Ki Asha (平和の願い)」と関係があると思われる。

 また、白人を逆差別的に描いていた点も気になった。アマンをテロリストと間違える白人の警察官がいたり、オフィスで不倫に勤しむ白人の中年カップルが出て来たりしたが、どれも一方的に英国人を貶めるような役柄で、まるで未だに反英独立運動をしているかのようであった。

 「Total Siyapaa」は、恋愛結婚しようとするインド人女性とパーキスターン人男性が直面する困難をコメディータッチで描いた作品である。コメディー部分は楽しめるものの、原作のスペイン映画をうまくインド的に咀嚼できていなかったのか、切れ味の鋭さに欠けていた。興行的にもフロップに終わった。決してつまらない作品ではないので惜しい。

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