Youngistaan

つて東京でオリンピックが開催された頃、インドの映画業界も日本に関心を持ったようで、「Love in Tokyo」(1966年)や「Aman」(1967年)など、日本ロケを含むヒンディー語映画が作られた。その後も散発的に日本で撮影されたインド映画はあった。00年代で記憶に新しいのは、アパルナー・セーン監督の「The Japanese Wife」(2010年)だ。しかし、当時彼女が日本に撮影に来ているという情報は全く流れなかったと思われる。ただ、2010年代になると、観光業界とのタイアップがあるのか、だいぶオープンになり、インド映画の撮影隊が日本でロケをしているという情報がTwitterなどで流れたり、エキストラ募集の告知が出されたりした。テルグ語映画とタミル語映画が率先して日本ロケをしている感じだったが、ヒンディー語映画も幸い乗り遅れていなかった。2013年に「Youngistaan」のロケが日本であった。渋谷や新宿などで撮影が行われ、インド映画ファンを中心に日本人もエキストラ出演した。トップスターの出演はなかったものの、ヒンディー語映画ファンにとっては大きなニュースだった。

 「Youngistaan」は2014年3月28日に公開された。題名は「若者の国」という意味の造語で、元々はペプシのCMに使われていたキャッチコピーだ。ヒンディー語映画はキャッチーな題名をと考える中で何らかの商品のキャッチコピーを拝借することが時々あり、例えばコカ・コーラのキャッチコピー「Dil Maange More」(心はもっと求めている)も2004年に映画の題名となった。当然、無許可のことがほとんどで、裁判沙汰になることが多い。「Youngistaan」のプロデューサーもご多分に漏れず、ペプシコに訴えられたが、最終的には公開に漕ぎ着けたようだ。

Youngistaan

 

 「Youngistaan」の監督は新人のサイヤド・アハマド・アフザル。プロデューサーはプラーンジャル・カーンドディヤーとヴァーシュ・バグナーニー。作詞作曲にはサイヤド・アハマド・アフザル監督の他、多数の作詞作曲家が参加している。列挙すると、スネーハー・カーンワルカル、シラーズ・ウッパール、シュリー・イシュク、ジート・ガーングリー、サナムジート、ハード・カウル、カウサル・ムニール、ソジー・ラーヴァンである。

 主演を務めるのはプロデューサー、ヴァーシュ・バグナーニーの息子で、「F.A.L.T.U」(2011年)などに出演のジャッキー・バグナーニー。ヒロインは「Crook」(2010年)でヒンディー語映画デビューしたネーハー・シャルマー。他にファールーク・シェーク、ボーマン・イーラーニー、カーヨーズ・イーラーニー、ディーパーンカル・デー、トリヴェーニー・サンガム・バフグナー、プラカーシュ・ベーラーワーディーなど。ちなみにファールーク・シェークは2013年12月27日に死去しており、「Youngistaan」は彼の遺作となった。

あらすじ

 日本のゲーム開発会社に勤務していたインド人エンジニア、アビマンニュ・カウル(ジャッキー・バグナーニー)は、恋人のアンヴィター・チャウハーン(ネーハー・シャルマー)や親友のアジャイ(カーヨーズ・イーラーニー)と共に楽しい毎日を送っていた。

 ある日、アビマンニュの携帯電話が鳴り、米国オーランドに呼ばれる。彼の父親でインドの首相ダシュラト・カウル(ボーマン・イーラーニー)が危篤だと言うのだ。ダシュラトはアビマンニュにいくつか遺言を残し、息を引き取る。

 ダシュラトが率いていた全インド革命党(ABKP)の支持率は低下しており、選挙の年を迎えていた。シュボディープ・ガーングリー(ディーパーンカル・デー)首相代理を始めとする同党幹部政治家たちは、奇策としてアビマンニュを新首相に擁立する。28歳のアビマンニュは、3年間住んだ日本を去り、インドの政界にいきなり首相として飛び込むことになる。アビマンニュとアンヴィターの生活は一変する。アビマンニュは常に護衛に取り囲まれ、アンヴィターは完全に自由を失った。アビマンニュはムルリー・ムクンダン財務大臣(プラカーシュ・ベーラーワーディー)から「グッドボーイ」と呼ばれ、それがあだ名として定着する。だが、ダシュラトのPA(個人秘書)だったアクバル(ファールーク・シェーク)が辛抱強く2人を支えた。

 アビマンニュは首相に就任した後もアンヴィターと同棲していたが、パパラッチによりそれが暴露される。だが、アビマンニュは気にせずに改革を進める。同時に、彼を操り人形にしようとする幹部政治家たちを次々に副首相や大統領などの名誉職に追いやって行く。しかし、アンヴィターが妊娠したことが身内の政治家アジャイ・タークル(トリヴェーニー・サンガム・バフグナー)によってリークされたことで、アビマンニュの足下は揺らぐ。ただ、アビマンニュもアジャイが国防大臣を務めていたときの汚職事件をCBI(中央捜査局)に密かに調査させており、その報告書を報告させる。アジャイの政治生命は絶たれる。こうしてアビマンニュは徐々に周囲を味方で固めて行く。

 ところで、現在ABKPは連立政権を率いていた。アビマンニュは連立政権の脆弱性を実感しており、次の下院総選挙では単独で戦うことを決意する。そして自身が首相候補となる。選挙の結果、ABKPは単独過半数を獲得し、アビマンニュも当選して、全ての賭けは成功する。

解説

 政治映画というジャンルはヒンディー語映画の中で細々とながら命脈を保っている。「Nayak」(2001年)、「Satta」(2003年)、「Raajneeti」(2010年)、「Satyagraha」(2013年)などが例として挙げられるだろう。残念ながら「Youngistaan」はそれら政治映画の中で飛び抜けた質を誇るような作品ではない。あくまで娯楽映画であり、重厚さや緻密さはない。主演ジャッキー・バグナーニーの演技もまだ未熟だ。

 ただ、映画の中に散りばめられた要素は、実在の政治家や政党をランダムにモデルにしており、面白い。特に主人公アビマンニュは、ネルー・ガーンディー家が輩出した歴代の首相や政治かをひとつに合わせたような人物設定となっている。海外で政治とは無関係の生活を送っていたのに、首相を務めていた親の死によって、新首相として担ぎ出されるというところはラージーヴ・ガーンディー(在位:1984-89年)の政界入りの状況と酷似している。首相に就任した後、実権を握る身内の政治家たちを次々に失脚に追いやって権力を手にする過程はインディラー・ガーンディー(在位:1966-77、80-84年)を彷彿とさせる。最年少で首相に就任し、若者のリーダーとなる部分は、国民会議派の副総裁ラーフル・ガーンディーが2014年の下院総選挙で成し遂げようとしていたことだ。政治家に転身した後のアビマンニュの外見やファッションはラーフル・ガーンディーそのものだ。

 よって、国民会議派寄りの映画のように感じるのだが、その辺りはバランスが取られており、アビマンニュが率いることになった全インド革命党は、どちらかというとインド人民党(BJP)に近い党是を持っている。この映画は2014年下院総選挙の前に公開されており、制作時期を見ると庶民党(AAP)のデリー州選挙勝利(2013年)以前に撮影は完了していたと思われるが、現首相のナレーンドラ・モーディーやAAP党首のアルヴィンド・ケージュリーワールもアビマンニュの人物設定に影響を与えていると思われる。

 ただ、「Youngistaan」で主にアビマンニュが行ったのは、党内の敵対勢力を削ぐことだった。党内政治と言えば聞こえはいいが、それまでエンジニアをしていた彼にいつそんな政治力が備わったのか謎であるし、党内の敵を抑え込んだだけで彼が選挙に勝利するという筋書きは乱暴すぎる。「世論」もかなりステレオタイプなもので、野党は存在感すらなかった。政治劇と言いながら、あまりに稚拙な展開だった。その代わり時間が割かれていたのは恋人アンヴィターとの関係だ。一国の首相が恋人と同棲し、しかも妊娠させてしまうという下世話な展開にはため息が出た。政治映画を無理にロマンス映画化する必要はなかった。

 この映画で最も重要なメッセージは、世界で最も「若い」国であるインドは、若いリーダーを欲しているということであろう。アビマンニュの進める政策は若者の教育と生活を支えるものであり、若者の力でインドを先進国に引き上げる夢が掲げられていた。40代前半のラーフル・ガーンディーが昨年に首相になっていたら、そういうインドが実現したかどうか、それは分からない。しかし、現代のインド映画らしいメッセージであった。

 「Youngistaan」は、あまり完成度が高くなかったが、日本ロケが行われたヒンディー語として、日本人の関心を引くだけの要素は持っている。ただ、日本のシーンはほぼ冒頭の導入部のみだ。一曲、スネーハー・カーンワルカルの「Tanki」が日本ロケのダンスシーンとなっている。これらのシーンでは、渋谷の交差点や新宿のロボットレストランなどが登場する。また、終盤の国連総会シーンは京都の国立京都国際会館で撮影されていると言う。他に、一瞬だけだが、東京タワーや富士山なども出て来ており、割と日本の名所を網羅している。

 「Youngistaan」では複数の作曲家がそれぞれの曲を作っているが、なかなか名曲揃いだ。スネーハー・カーンワルカルのダンスナンバー「Tanki」、ラファーカト・アリー・カーンのカッワーリー曲「Data Di Diwani」、アリジト・スィンのバラード「Suno Na Sangmarmar」など、どれも力がある。問題はどの曲も特にストーリーとの関連性を持っていなかったことだ。

 「Youngistaan」は、28歳の若者がインドの首相になるという非現実的な設定が売りのライトな政治映画である。国民会議派副総裁のラーフル・ガーンディーをはじめ、現在インド政界の一線で活躍している政治家たちをモチーフにしており、世相を映す映画として特筆すべきである。ただ、完成度は低く、興行的にも振るわなかったようだ。ただ、日本人には日本ロケのある映画としてユニークなアピールがあるし、名優ファールーク・シェークの遺作にもなった。続編も予定されていると言う。

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