インドの祭日の配置について

日、僕が現在住む豊橋市の御幸神社で行われた花祭を見に行った。

 

御幸神社

御幸神社

 

 

 この祭りは、愛知県の最北端に位置する奥三河地方の各部落で行われて来た民俗芸能である。少なくとも500年以上の歴史があると言う。伝統的には氏子の家を使って行われるようで、お湯を沸かした大釜を土間に置き、昼夜通して舞踊が舞われる。毎年12月~2月頃に、各部落で日をずらして行われる。氏子たちがいくつかの仕事を分担して祭りを執り行うのだが、その役割も代々世襲で受け継がれて来ているらしい。また、伝統的には男子のみが参加を許される祭りであると言う。

花祭

花祭

 豊橋市の御幸神社がある地方は、佐久間ダム建設時に水没地域に住んでいた村人たちが移住して来たこともあり、花祭を行うために御幸神社が建てられ、移民によってこのユニークな祭りが継承されることになったようだ。都市部の神社で行われる商業的・イベント的な祭りとは全く異なり、「神事」という言葉がピッタリの、とても神秘的な祭りだった。「トオトヘ・トヘヘト」「トーホエ・テオヘト」などと、意味不明の掛け声が入るのも、その神秘性を助長していた。

花祭

花祭

 自分の生まれ育った市内で、このような祭事が行われていたことは今まで知らず、非常に興味深く見物させてもらった。鬼の仮面をかぶっての踊りもあり、ラダック地方のチャムを連想させられた。日本に戻って来てからも、どこかでインドとのつながりを探してしまうのは、病気と言っていいだろう。

鬼

 この花祭では、次々と舞子が舞戸と呼ばれる土間にやって来ては、笛や太鼓の音に合わせてスローテンポの踊りを踊っていた。どれも面白かったのだが、一番印象に残ったのは、お爺さんとお婆さんのお面をかぶった人が出て来て、しばらく舞戸をトボトボと歩き回った後、おもむろに床にゴザを敷いて、その上で情事の真似事を始めたことであった。やはり祭りというのは性と密接な関係を持っているものだ。そういうところまでしっかりと継承していることに感心した。お爺さんとお婆さんに扮した2人がそれをするというのは、おそらくコメディー感を出すためであろう。

翁と媼

翁と媼

 

 ここでまた病気なのだが、インドでも祭りと性は関係があるのだろうか、ふと考えるに至った。確かダシャハラーの日にはコンドームの売上が上がるなどと言った記事を読んだことがあり、ハレの日の雰囲気と性的興奮とはインドでも無縁ではないと考えられる。ちなみに、ヒンディー語映画「Kai Po Che」(2013年)でも、ダシャハラーの日の情事が描かれている。

 それと関連して思い当たったのが、インドでは伝統的にサーワン月(7月-8月)の子作りを禁じていることである。その理由はいくつか挙げられるのだが、もっとも科学的な根拠は、この時期に作った子供は、酷暑期に生まれることになってしまうからである。インドがもっとも過酷な季節を迎えるこの時期の出産は、母子共に危険である。

 そうすると、ヒンドゥー教三大祭のある時期はどうであろうか?ヒンドゥー教の祭日のほとんどは太陰太陽暦に従っているので年によって変動があるのだが、大体ダシャハラー祭は10月、ディーワーリー祭は11月、そしてホーリー祭は3月になる。その時期に子供を作ったとして、出産時期を計算してみると、それぞれ7月、8月、12月前後となる。酷暑期とは重ならないし、特にダシャハラー祭やディーワーリー祭のときに作った子供は、酷暑期を迎えるまでに十分成長していることになる。かなり理想的なスケジュールである。

ダシャハラー祭

ダシャハラー祭の準備中
デリーのタタールプルにて

 そこで今度は子作り禁止のサーワン月を見てみると、ラクシャーバンダン祭が存在する。ラクシャーバンダン祭は兄妹間の祭りで、女性は自分の兄または弟にラーキーと呼ばれる手首飾りを贈る習慣になっている。三大祭には入っていないものの、かなり熱心に祝われる祭りのひとつである。この時期、既婚の女性たちは実家に帰って実の兄弟たちと会うことが多い。つまり、夫婦が離れ離れになるような祭りになっている。もしかして、そこまで考慮して、これらの祭りが配置されているのだろうか?そうだとしたらものすごい発見である。

 インド人の誕生日分布を調べてみても面白いかもしれないが、残念ながらインド人は2つの誕生日を持っていることがあるので、正確な統計は出て来にくいだろう。書類上の誕生日と、実際の誕生日を使い分けているのである。戸籍がないので、そういう芸当ができる。今回の件では、書類上の誕生日を集計しても意味がない。Facebookなどの情報からすると、おそらく7月1日が異常に多くなると思うが、それはかつてその日に小学校の入学手続きがあったからである。この日までに5歳になった子が小学校に入学できるので、まだ実際には5歳になっていない子を、7月1日が誕生日ということにして、早めに学校にねじ込んでいた訳である。

 余談になったが、インドの祭りはもしかしたら非常に緻密な計算の下に日付けが設定されているのかもしれないということを一応書き留めておきたかったのであった。ヒンドゥー教の祭りは時期に偏りがある。酷暑期はほとんどないし、秋から冬に掛けては毎日お祭りのような状態だ。それはモンスーンや農業の影響かと思っていたが、もしかしたらもっと深い意味があるのかもしれない。

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2014年1月9日 | カテゴリー : ブログ | 投稿者 : arukakat